ロペス・コボス/N響:「三角帽子」他、スペイン情緒プログラム2014/05/16 23:59

2014.05.16 NHKホール (東京)
Jesús López-Cobos / NHK交響楽団
Johannes Moser (cello-2)
林美智子 (mezzo-soprano-3)
1. アルフテル: 第1旋法によるティエントと皇帝の戦い (1986)
2. ラロ: チェロ協奏曲 ニ短調
3. ファリャ: バレエ音楽「三角帽子」全曲

翌日からのタイフェスティバルの準備でドリアンの香り漂う夕刻の代々木公園を突っ切り、5年ぶりのNHKホールへ。音響的にもアクセス的にも、できたらこのホールは避けたいのですが、このプログラムはここでしかやらないので仕方がない。

1曲目は現代スペインの作曲家クリストバル・アルフテルの「第1旋法によるティエントと皇帝の戦い」という、作曲者も曲名も全く初めて聴く演目です。途中、えげつない不協和音を使ったりはするものの、本質は保守的な調性音楽に見えます。シロフォン2台に加えてマリンバと、色彩はやや硬質。最後のほうは民謡に取材したような展開が続き、位置づけとしては外山雄三の「ラプソディ」みたいなもんか、とふと思いました。それにしてもNHKホールの3階は音響がイマイチ。低音が届かないし、分離が悪くて何だかよくわからない音塊になるので、特にこの曲ような大編成には向かない環境です。ホールはバカでかいですが、むしろ小編成の古典楽曲のほうが向いてるんじゃないかと感じました。初めて見るロペス・コボスは、写真で見るよりずっとスマートでダンディなじいちゃんでした。

続くラロのチェロ協奏曲も初めて聴く曲。そもそもラロと言えばほとんど「スペイン交響曲」しか知りませんが、こちらもスペイン情緒ある曲ながら、比べるとずっとフォーマルでよそ行きな印象です。チェロがあまりにも「主役」過ぎて、協奏曲というよりも管弦楽伴奏付きソロ曲の趣きがあります。さてそういった、民族ルーツはスペインのフランス人が書いた曲を、ドイツ生まれのカナダ人であるモーザーが演奏する、というインターナショナルな状況の中、そんなに濃いスペイン色を感じなかったのは致し方ないかもしれません。モーザーはよく歌うチェロで、全編通してのちょっと堅物的なカンタービレもさることながら、第2楽章中間部などでの肩の力が抜け切った軽口風チェロが絶妙でした。掛け値なしに上手い人だと思います。

メインは待望の「三角帽子」。全曲版はCDこそ多数出ているものの、組曲版と違って演奏会のプログラムに乗ることはめったになく(これだけ愛して探し求めていた私がそう思うのだから間違いない)、実演で聴くのは初めてです。指揮者は願ってもない、スペインの巨匠ロペス・コボス。やはりご当地もので得意曲なんでしょう、このての曲では珍しく、全編暗譜で振ってました。聴こえてくる音は最初のアルフテルの曲とは違い、とてつもなくリズムにキレがあって、音の整理もスッキリしていて見通しやすいです。集中力このところ在京のプロオケをいろいろと聴き比べてきた中であらためて思ったのは、さすがは腐ってもN響、管楽器奏者の一人一人の安定感はさすがに別格です。特にファゴット、コーラングレ、ホルン、トランペットなど、ロペス・コボスの速めのテンポにも振り落とされずに自分の仕事を全うしていました。メゾソプラノは最初舞台の中程で、次の出番には舞台袖から歌っていましたが、正直言うと、あんまし上手いとは言えないかなーと。元々出番は少なく、満を持しての歌唱にしては存在感を残せなかったのが残念。3階席には相変わらず低音が響いて来ない、と言う点を除くと、滅多に聴けないこの曲を専門家の手できびきびと聴かせてくれた演奏会にたいへん満足しました。ただし最後の一発は意図せず(してないと思います)何かが抜けちゃったようにパンチ不足で、そこが致命的な不満でした。ともあれ、以前はあまり好印象がなかったN響でしたが、在京オケの中での存在感をあらためて感じたのが収穫でした。