新日本フィル/ハーディング:何じゃこりゃ、のブラームス2014/05/02 23:59

2014.05.02 サントリーホール (東京)
Daniel Harding / 新日本フィルハーモニー交響楽団
1. ブラームス: 交響曲第2番ニ長調 op.73
2. ブラームス: 交響曲第3番ヘ長調 op.90

新日フィルはえらい久しぶりですし、ハーディングも3年ぶりなので、このところレギュラーで組んでいる両者がいったいどんなことになってるか、楽しみでした。ふむ、このブラームスプログラムの曲順は、2番が後、じゃないのね。3番をメインに持ってくるのは何かしら狙いがあるのかな。

まず第2番ですが、のっけからテンションが低い。あえてキツく書くと、冒頭からもう管の音はプロのそれではない。弦も痩せていて、重低音まるでなしのさらさらふわふわ。何がやりたいのかわからない、以前に、何もやりたくなさそうに聴こえました。これがハーディングの目指すブラームス?確かに、彼のブラームスはCD含めてまだ聴いたことがなかった。ただ、同じ席で先日都響を聴いたときとは全然違う音響でしたし、ハーディングがロンドン響を振ったときの音作りはずいぶん骨太なものだったので、音の貧弱さは席のせいでも指揮者のせいでもなく、オケのせいであることは明白。見たところ、別にナメているわけではなくて、真面目にやってはいるんだろうけど、力が全然及んでないという感じです。新日フィルってこんなにひどかったっけ?と、軽いショック。ハーディングもそれはわかった上でクールに流し、終楽章コーダでようやくエンジンをかけてピークを作っていくも、トランペットなんかあからさまに真っ向勝負から逃げる始末。うーん、この演奏でブラヴォーを叫べる人は、普段一体どんな演奏を聴いているんだろう?

続く第3番は第2番よりも落ち着いた曲調なので、テンションが低くてもまだ多少はサマになってましたが、オケのバランスがいびつなのは相変わらず。ロングトーンすらまともに出来ない管は、先日聴いたワセオケのほうが全然ましと思えるくらい。弦もボウイングが適当で揃ってないし、低音は腹に響いて来ない。キズばかりに目が行ってもしょうがないと、聴いてる途中ちょっと反省したのですが、持ち上げる部分は最後まで見つかりませんでした。久々に、時間とお金の無駄だったと心底思ってしまった演奏会でした…(大した席じゃないのにけっこうチケット高いんすよ)。

ハーディングのようなメジャー級が毎年客演に来てくれるのだから日本の楽壇もなかなか捨てたものではない、と行く前は思っていたのですが、以前の東フィルといい、新日フィルといい、ハーディングってもしかしてオケの品質には全然こだわりがないんじゃないか、とも思えてきました。来月のブラ4はもうチケット買ってますし、来シーズンのブルックナーやマーラーも「買い」かなと思ってたのですが、高いチケットに見合うだけのものは微塵も得られないのではないかと、だいぶ気持ちが萎えてます。

東大醫學〜蘭方医学からドイツ近代医学へ2014/05/05 18:00


こんなギリギリでの紹介は罪作りかもしれませんが、東京駅丸の内南口前のJPタワー(東京中央郵便局)内のインターメディアテクにて行われている特別展示「東大醫學〜蘭方医学からドイツ近代医学へ」が予想外に面白かったので、今日家族を連れて再び見に行ってきました。

東大医学部に蓄積されている医学標本を展示しつつ近代日本の医学の歩みを紐解くような展示かと思いきや、もちろんそういう主旨もあるのですが、何よりその物量に驚かされます。解説はそこそこに、とにかくひたすらモノを見せ続けることで生まれる揺るぎない説得力。それに、一口に医学標本と言っても人間の所謂病理標本のようなものは意外と少なく、動物の骨格模型や剥製、昆虫の標本、さらには鉱物標本まで、何でもありの世界は、まるで自然史博物館のミニチュア版みたいです。最近学校で解剖実験をやった娘は、おびただしい数の魚やカエルの骨格標本を興味深そうに見入っておりました。

ちょっとグロ系もありますが、とにかく一見の価値ありです。こんなに面白く、家族でも楽しめる展示が、何と入場無料。5月11日までですので、ご興味ある人は急いでお出かけください。

日フィル/山田和樹/小林美樹(vn):20世紀のロマンティストたち2014/05/10 23:59


2014.05.10 みなとみらいホール (横浜)
山田和樹 / 日本フィルハーモニー交響楽団
小林美樹 (vn-1)
1. コルンゴルト: ヴァイオリン協奏曲
2. ラフマニノフ: 交響曲第2番

みなとみらいホールは超久しぶりです。確か前に行ったのは前世紀かと。

今日は山田和樹のラフマニノフが聴きたいがために遠路横浜まで出てきたので、コルンゴルドはソリストの名前も知らないし、正直全く期待してなかったのですが、予想外に良かったので得した気分でした。1990年生まれの小林美樹さん、チラシを見た限り、今流行?のぷにぷに系アイドル・アーティストとして売り出したいんだけど事務所がまだそれほどはやる気になってない、という十把一絡げ的な香りがだいぶしたのですが、やっぱり演奏家はまずは音を聴いてから判断しなくてはなりませんね。舞台に登場した小林さん、確かにぽっちゃり系なんですが、実物は写真よりもずっとキュート、という普通とは逆のパターン。意外と体格はがっしりとしていて、男勝りに音がしっかりしており、2階席まで十分な芯を持ちつつ届いていました。時々雑に響くところもありましたが、情緒的でも感傷に走らない大人の表現力は、単に「上手い」以上のプラスαを持っています。ふくよかな二の腕から奏でられる「男のロマン」を体現したようなヴァイオリンは、ジャニーヌ・ヤンセンとかサラ・チャンの系列ですかねえ。また、その若さにして終始落ち着いたマダムの振る舞いは、大した肝の座り方と感服しました。オケもメリハリが利いていて、ソリストを盛り立てました。今後小林美樹の名前を見つけたら、安心して積極的に聴きにいきたいと思います。

メインのラフマニノフ第2番。山田和樹がBBC響を振ったロンドンデビューの演奏会を聴き、ざっくりとした全体像を上手く抽出してみせて最後まで見失うことなくオケを鳴らせる人、という印象だったのですが、その後BBC Radio 3で放送された当日のライブを録音し、繰り返し聴くうちに、マクロだけじゃなく、特に第2楽章、第3楽章ではミクロにもいろいろときめ細かいリードを利かせていることに気付き、BBC響の卓越した演奏能力も相まって、その演奏が益々好きになりました。日本のオケを相手に同じことがどこまで出来るのか心配もあったのですが、期待を裏切らずきっちりと自分の音楽を作っていたので感心しました。前と同じく遅めのテンポながらも、コンパクトでクリアな印象を与える見通しの良い演奏です。ゆったりやるとゆうに1時間はかかる長大な曲ですが、長丁場を全く飽きさせないのはロードマップが明確で、音の整理がしっかりとできているからでしょう。オケも最後まで破綻せずによく鳴っており、クラリネットもホルンもソロで美しい見せ場をきっちりと作り、そりゃあBBC響のレベルには届かないとしても、プロの仕事として素晴らしい仕上がり。はるばる横浜まで聴きに来た甲斐は十二分にありました。

あらためて思いましたが、山田和樹はホンモノです。音楽の充実とオケの鳴りっぶりを聴くに、今の日フィルとの良好な関係もうかがえます。しかし、それでもあえて思ったのは、彼には出来るだけ「一流の楽器」を与えてあげて、グローバルスタンダードの世界でタフに成り上がって欲しい、ということ。ヨーロッパの活動を優先し、年に1回くらいは日本に帰ってくる、くらいの露出感でも全く良いのではないかと。

ツィガーン/都響:ローマの祭、セビーリャ交響曲、道化師の朝の歌ほか2014/05/12 23:59

2014.05.12 東京文化会館 大ホール (東京)
Eugene Tzigane / 東京都交響楽団
1. ラヴェル: 道化師の朝の歌
2. ラヴェル: 組曲《クープランの墓》
3. トゥリーナ: セビーリャ交響曲 op.23
4. レスピーギ: 交響詩《ローマの祭》

ユージン・ツィガーンは日本人の母親を持つアメリカ人指揮者ですが、名前から推測すると民族的ルーツはロマ系ハンガリーでしょうか。顔の外見は北方よりも南方、もろラテン系の感じでしたが。ユージンと言えば、まず思い出すのはピンク・フロイド、次にオーマンディ…。

さて今日は、コストパフォーマンスで定評のある東京文化会館の5階席を初体験してみました。奏者の息づかいまで聴こえるかぶりつき席が好みの私は、今までなら絶対選ばない(そこしか無いなら行くのを止める)席ですが、東京の演奏会の価格設定にはそろそろ疑念を抱いてきており、各ホールでいろんな席を試しているところです。5階席は椅子が高くて斜度が急なのに転落防止の柵もないので、ちょっと恐いです。高所恐怖症の人には向かないでしょう。天井が近いせいか、ステージとの距離があるわりには至近距離のボリューム感があります。ダイナミックレンジが広くて分離は悪くなく、大太鼓もマンドリンもよく聴こえました。演目にもよりますが、確かにコスパの良い席と認識しました。それにしてもここは、不思議なホールです。側面の壁のよくわからんオブジェとか、下に凸の天井とか、反響を複雑にしていると思うのですが、昔からどこに座っても悪い音に当たった記憶があまりありません。

本日のプログラムはフランス、スペイン、イタリアのラテン系世界遺産ごちゃまぜ風ですが、1曲目の「道化師の朝の歌」はラヴェル得意のスペイン趣味に溢れた曲なので、スペイン色が若干強いですか。個人的にはあまり聴かない曲で、前回聴いたのはもう5年も前のミュンヘンフィルですが、その遥か以前にこのホールで聴いた山田一雄の生前最後の演奏(オケは新響)がアマオケとは思えない豪演で度肝を抜かれたのをおぼろげに憶えています。ツィガーン/都響のはあまりスペインっぽくなくて、躍動感に欠けリズムに乗り切れてないせいかと思ったのですが、身体がまだ温まってなかったかも。

続く「クープランの墓」、これは実演で聴くのは初めて。こちらは擬古典的フランス風の小洒落た小品で、ぐっと絞った編成でより透明度の高い演奏になってました。しかし、全体的にもっと柔らかい音が欲しいところ。トランペットなんかちょっとヤケクソ気味で、私的にはぶち壊しでした。

3曲目のトゥリーナ「セビーリャ交響曲」は全く初めて聴く曲です。コンセプト的には「ローマ三部作」のスペイン版のような写実的交響詩ですが、これは正直言って曲がつまらない。楽想から構成から色彩感から、どこを見てもレスピーギとは比類のしようもなく、この曲がポピュラリティを獲得できなかったのもむべなるかな。

ここでやっと休憩、前半はちょっと冗長でした。後半メインの「ローマの祭」は大好きな曲ですが、この曲には深みなんかよりもっと直裁的にフィジカルなカタルシスを求めます。金管が最後までヘタレず、オケがガンガン鳴っていれば基本はOKの曲ですが、そう言う意味ではホルンもトランペットもトロンボーンも、各々に残念な箇所はあり、厳しいかもしれませんがインバル指揮のマーラーで見せたような集中力をここでも発揮してもらいたかったところです。ただし最後の畳み掛けは無理をしてでもリズムの加速優先であるべきで、そこは私の好みとも一致して、都響のプロの意地を垣間見ました。計10人の大打楽器チームも健闘しました。この曲はやっぱり生で聴くのが格別ですわ。とここで思い出した余談は、この曲を初めて生で聴いたのも山田一雄(オケは京大)だったなあと、しみじみ…。

今日のプログラムだけでは何ともわかりませんが、ツィガーンはオケのドライブはちゃんとできるし、スマートなハンサムボーイで見栄えも良いんですが、時には泣き、時には土臭く歌う情感の引出しがまだ少なそうなのと、小さくまとまっていて、カリスマ性というかオーラが足りないです。時には斧を振り回すような狂気を目指してもよいんではないでしょうか。

あとさらに余談は、上から見ていてふと目に止まった優香似の美人ピッコロ奏者。あとで調べたら、中川愛さんという、東響から都響へ昨年移籍したフルーティストだそうです。今後、都響の演奏会では要チェックです!(何を?)

ロペス・コボス/N響:「三角帽子」他、スペイン情緒プログラム2014/05/16 23:59

2014.05.16 NHKホール (東京)
Jesús López-Cobos / NHK交響楽団
Johannes Moser (cello-2)
林美智子 (mezzo-soprano-3)
1. アルフテル: 第1旋法によるティエントと皇帝の戦い (1986)
2. ラロ: チェロ協奏曲 ニ短調
3. ファリャ: バレエ音楽「三角帽子」全曲

翌日からのタイフェスティバルの準備でドリアンの香り漂う夕刻の代々木公園を突っ切り、5年ぶりのNHKホールへ。音響的にもアクセス的にも、できたらこのホールは避けたいのですが、このプログラムはここでしかやらないので仕方がない。

1曲目は現代スペインの作曲家クリストバル・アルフテルの「第1旋法によるティエントと皇帝の戦い」という、作曲者も曲名も全く初めて聴く演目です。途中、えげつない不協和音を使ったりはするものの、本質は保守的な調性音楽に見えます。シロフォン2台に加えてマリンバと、色彩はやや硬質。最後のほうは民謡に取材したような展開が続き、位置づけとしては外山雄三の「ラプソディ」みたいなもんか、とふと思いました。それにしてもNHKホールの3階は音響がイマイチ。低音が届かないし、分離が悪くて何だかよくわからない音塊になるので、特にこの曲ような大編成には向かない環境です。ホールはバカでかいですが、むしろ小編成の古典楽曲のほうが向いてるんじゃないかと感じました。初めて見るロペス・コボスは、写真で見るよりずっとスマートでダンディなじいちゃんでした。

続くラロのチェロ協奏曲も初めて聴く曲。そもそもラロと言えばほとんど「スペイン交響曲」しか知りませんが、こちらもスペイン情緒ある曲ながら、比べるとずっとフォーマルでよそ行きな印象です。チェロがあまりにも「主役」過ぎて、協奏曲というよりも管弦楽伴奏付きソロ曲の趣きがあります。さてそういった、民族ルーツはスペインのフランス人が書いた曲を、ドイツ生まれのカナダ人であるモーザーが演奏する、というインターナショナルな状況の中、そんなに濃いスペイン色を感じなかったのは致し方ないかもしれません。モーザーはよく歌うチェロで、全編通してのちょっと堅物的なカンタービレもさることながら、第2楽章中間部などでの肩の力が抜け切った軽口風チェロが絶妙でした。掛け値なしに上手い人だと思います。

メインは待望の「三角帽子」。全曲版はCDこそ多数出ているものの、組曲版と違って演奏会のプログラムに乗ることはめったになく(これだけ愛して探し求めていた私がそう思うのだから間違いない)、実演で聴くのは初めてです。指揮者は願ってもない、スペインの巨匠ロペス・コボス。やはりご当地もので得意曲なんでしょう、このての曲では珍しく、全編暗譜で振ってました。聴こえてくる音は最初のアルフテルの曲とは違い、とてつもなくリズムにキレがあって、音の整理もスッキリしていて見通しやすいです。集中力このところ在京のプロオケをいろいろと聴き比べてきた中であらためて思ったのは、さすがは腐ってもN響、管楽器奏者の一人一人の安定感はさすがに別格です。特にファゴット、コーラングレ、ホルン、トランペットなど、ロペス・コボスの速めのテンポにも振り落とされずに自分の仕事を全うしていました。メゾソプラノは最初舞台の中程で、次の出番には舞台袖から歌っていましたが、正直言うと、あんまし上手いとは言えないかなーと。元々出番は少なく、満を持しての歌唱にしては存在感を残せなかったのが残念。3階席には相変わらず低音が響いて来ない、と言う点を除くと、滅多に聴けないこの曲を専門家の手できびきびと聴かせてくれた演奏会にたいへん満足しました。ただし最後の一発は意図せず(してないと思います)何かが抜けちゃったようにパンチ不足で、そこが致命的な不満でした。ともあれ、以前はあまり好印象がなかったN響でしたが、在京オケの中での存在感をあらためて感じたのが収穫でした。

マゼール/フィルハーモニア管のマーラー交響曲シリーズ第2弾2014/05/25 23:59


没後100年の2011年にロンドンのロイヤルフェスティバルホールにてライブ録音されたマゼール/フィルハーモニア管のマーラー交響曲全集。4、5、6番の3曲を収めた第2弾のCDセットが届きました。第1弾から7ヶ月、このペースだと第3弾(おそらく7〜9番)、第4弾(おそらく10番、Erdeと歌曲集)までたどり着くのは来年でしょうかね。

まだざっと一通り聴いただけですが、豪快に音を外していた第6番のトランペットは、やっぱり直ってる(^^)。アンディ師匠のティンパニの破壊力、特に第5番の3楽章ですが、しっかりディスクに収められてます。

当時書いたレビューを見ながら、貴重な体験を懐かしく反芻したいと思います。