ロイヤルバレエ:ヘンゼルとグレーテル2013/05/09 23:59


2013.05.09 ROH Linbury Studio Theatre (London)
Royal Ballet: Hansel and Gretel
Liam Scarlett (choreography), Dan Jones (music)
Ludovic Ondiviela (Hansel), Elizabeth Harrod (Gretel)
Johannes Stepanek (father), Kristen McNally (step-mother)
Donald Thom (sandman), Ryoichi Hirano (witch)
Dan Jones/Orquesta Sinfonica de Galicia (music performed by)

ロイヤルバレエの奇才スカーレットの新作にして初の全幕もの、リンベリースタジオながらエース級をふんだんに投入した配役、童話を題材にしていながら子供禁止の演出ということで、全く事情通じゃない私でも何だかよくわからない期待感で胸いっぱいになってしまうほどでしたが、平のフレンド向けチケット発売日の朝一番にアクセスするも、すでにソールドアウト。しつこくサイトをチェックして、何とか初日と二日目のリターンを1枚ずつゲットしました。マクレー様の出演する初日はもちろん妻の取り分ですので、私が見たのは二日目のBキャスト。そのマクレーさんが素顔で奥様の晴れ姿を見に来ていて(初日は砂男のかぶり物を付けっぱなしで顔が見えなかったそうです)、そのへんをうろうろしていたので、結果的にはこっちの日に来たほうが妻は正解だったかも。

「ヘンゼルとグレーテル」はグリム童話ですから元々がダークなテイストですが、このスカーレット版は舞台設定を1950年代のアメリカに移して、離婚(継母)、アル中、家庭内暴力、ペドフィリア、ネクロフィリアといった原作にはない要素を盛り込んで、全編をダークなムードで統一しています。ラストも救いがありません。この童話を現代に持って来て展開したら、やっぱりこうなるんだろうな、という妙な納得感はありました。

舞台はモダンですが、踊りはコンテンポラリーというよりは、ポワントシューズで踊るバレエの範疇です。マクレー夫人のエリザベス・ハロッドをちゃんと見るのは初めての気がしますが、顔がちっちゃくて可憐だけど芯が通っててやるときゃやるキャラクターが、グレーテルにぴったりハマりました。継母のマクネリは、これまで「アリス」のイカレた料理人とか、ストラヴィンスキーの「結婚」とか、ヘンな役所ばっかりで見ていたのですが、ミスユニバース系の正統派美人であることにようやく気付きました。

個人的に今日一番のヒットだったのは、ヤノウスキーの代役だった平野亮一さん。白髪のオールバック、切れ長の目に黒ぶち眼鏡、書生っぽいセーター、いっちゃってるニヤケ笑い、彼のウィッチ(というよりウィザード)は「アブナイ人」キャラがめちゃめちゃ立っていて、インパクト極大でした。長身のガッシリしたプリンス系の役を踊ってきた彼にしては、だいぶ新境地を開拓したのではないでしょうか。彼が日本人で、見ている私も日本人だからこそ感じた「猟奇性」は確かにあったと思うので、現地の観衆はどう感じたのか、聞いてみたいです。それにしても、蓋を開けてみたらこのウィッチは全くの男役で、これを(男勝りの長身・筋肉質ではあるけれども女性であり母である)ヤノウスキーにどう踊らせるつもりだったのか俄然興味が湧き、次の機会には是非とも元々の発想を見たいものだ、と思いました。

初日ではマクレーが演じた砂男は、原作にはない登場人物ですが、フンパーディンクのオペラでは「眠りの精」に相当する役回しかと。サイバーニュウニュウのメカエルビスみたいな(という例えがわかる人は少ないでしょうが)リーゼント、無表情のかぶり物で、キッチンの冷蔵庫の中からいきなり登場し、終始くねくねくにゃくにゃと動いて、ウルトラマンレオで蟹江敬三が演じていた軟体宇宙人ブニョ(という例えがわかる人はもっと古い)みたいに、実に神経を逆撫でするキャラクターです。この日しか見てないので何とも言えんのですが、Bキャストのドナルド・トームは身体の柔軟性において、この役にはあまり向かないのではと思いました。ウィッチに比べて「アブナイ」度が足りませんでした。もっと重力に身を委ねタコのように脱力し切った異形の動きは、マクレーなら多分できるはず。

今日は舞台を挟んで両側に客席があり、一部がせり上がって下からお菓子の家ならぬ「玩具の家」の地下が出てくるという3Dな舞台装置でした。これはメインのオーディトリウムでは上演困難でしょう。リンベリーは2回目でしたが、このスタジオにはいろんな仕組みがあるものだと感心しました。第一部の追っかけっこ場面などが多少冗長に感じましたが、それ以外は目の離せぬ100分間で、私は大いに楽しみました。こんなことならAキャストのチケットも自分用に買っておくべきでした。



アブナい人、平野亮一さん。

コメント

_ 守屋 ― 2013/05/13 14:08

おはようございます。平野さん、カーテンコールでは素に戻っていたように見えましたが、こうしてみると、「危ない雰囲気」はそのままですね。ご指摘・推測の通り、砂男はマックレーの方が数段上を行っていました。やはり、プリンシパルは何でもこなせるということを実感しました。僕の方にリンクさせて頂きたく、ご了承のほど。

_ Miklos ― 2013/05/14 06:15

リンク、もちろん結構です。そうですか、王子様にマッドハッターに砂男、やっぱりマクレーは多彩ですね。うちの妻はもうひとつ気に入らなかったようですが、私には、また見たい演目の筆頭です。

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
スパム対策で「クイズ認証」導入してます。2020年夏季五輪開催地の日本の首都は?(漢字で)

コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://miklos.asablo.jp/blog/2013/05/09/6809185/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。