2012プロムス12:バレンボイム/WEDO:田園の運命やいかに2012/07/23 23:59


2012.07.23 Royal Albert Hall (London)
BBC Proms 2012 PROM 12
Daniel Barenboim / West–Eastern Divan Orchestra
Guy Eshed (Fl-2), Hassan Moataz El Molla (Vc-3)
1. Beethoven: Symphony No. 6 in F major, 'Pastoral'
2. Pierre Boulez: Mémoriale ('... explosante-fixe ...' Originel) (1985)
3. Pierre Boulez: Messagesquisse (1976)
4. Beethoven: Symphony No. 5 in C minor

バレンボイム/ウエスト=イースタン・ディヴァン管(WEDO)によるベートーヴェンの交響曲全曲演奏会は今年のプロムス最大の目玉で、チケットも早々に売り切れていました。週末からようやくやってきた夏らしい天気も手伝って、立ち見チケットを求めるプロマーの長い列が出来ておりました。場内に入るとおびただしい数のテレビカメラが。てっきり生中継かと思えば、放送は26日でした。

WEDOを聴くのは全く初めてです。一昨年のプロムスにも確か来ていましたが聴くチャンスがありませんでした。イスラエルとアラブ諸国の若い音楽家が集まった楽団というので学生オケのようなものを想像していたら、メンバーは意外とアダルト。確かに若いんですが、シモン・ボリバルほど若くもない。第1ヴァイオリン16、コントラバス8という弦の編成は昨今のベートーヴェン演奏ではむしろ少数派に属する大所帯で、その点はアマチュア楽団の様式が残っています。なお、コンマスはバレンボイムの息子、マイケル君。

地平線から輪郭のぼやけた朝日が徐々に顔を出すがごとく厳かに始まった「田園」は、暖かみのある木目調の音。まるでイスラエルフィルみたいに渋い弦の音に、彼の地の伝統を見た気がしました。ゆったりとビブラートをかけつつ、ゴツゴツとした肌触りで進む「田園」は、ピリオド系何するものぞという巨匠時代の残照。バレンボイムがフルトヴェングラーのコピーだという揶揄を時々聞くものの、私はその本家フルトヴェングラーの演奏はほとんど聴いたことがないので判断できませんが、この大時代的なベートーヴェンを目の当たりにして、言われていることは確かに分かる気がします。

続くブーレーズの「メモリアル」は独奏フルートにヴァイオリン3、ヴィオラ2、チェロ1、ホルン2という編成の室内楽。バレンボイムの指揮付きでした。私はこの手の音楽の理屈は未だによくわからないので感覚的に聴くしかないのですが、テイストはまさに20世紀のゲンダイオンガク、21世紀にはすでに絶滅してしまったような音楽に思えました。

プログラムではここで休憩となっていたのでいち早くトイレに行って用を足していたら、「まだ休憩ではありません、席に戻ってください」というアナウンスが聞こえたので慌てて席に戻りました。次も短い曲なので先にやってからインターバルにするということにいつの間にか変わっていたみたいなのですが、周知徹底されておらず(私も知らなかった)、すでに会場の外に出ている人、バーに並んでいる人などが多数いて、この曲だけ客席に空席が目立ちました。これはマネージメントの不手際でしょう。奏者は気の毒です。

同じくブーレーズの「メサジェスキス」は独奏チェロと6人のチェロ奏者というチェロづくしの編成。これもバレンボイムの指揮があり、チェロアンサンブルというモノクロームな楽器の特質のおかげか、さっきの曲よりは直情的で、エネルギーの噴出が直に伝わってくる曲でした。難解な曲ながらもチェロソロの活躍が聴衆の心をつかみ、やんやの喝采を浴びていました。

メインの「運命」は、過去に演奏会で聴いた記憶が、どうしても思い出せません。ゼロということはないと思うのですが、プロの演奏では多分聴いてないと思います。あまりに通俗的すぎてプロオケのプログラムには意外と取り上げられませんし、自分もあえてこれを目的に足を運ぶこともなかったので。中1の4月、部活を選ぶのに友達に誘われて何の気なしに見学に行ったオーケストラ部で、ちょうど先輩達が総練していたこの「運命」が、まさにその後の自分の運命を決めたのだから、自分に取って特別な曲ではあるのです。

ジャジャジャジャーーンと、まさに大見得を切るように始まった「運命」。巨匠時代風とは言え、カラヤンのようにスポーティに走り抜く筋肉質な演奏とは全く違って、あくまでゴツゴツとぎこちなく泥臭い進行です。正直、決して上手いオケとは言えず、応答が鈍くて崩壊しかけた箇所も実際ありましたが、ホルンとヴィオラが相対的にしっかりとして中盤を固めているので、全体の音は一本筋が通って引き締まっています。これもある意味、古き良き時代の遺産的「運命」なのかもしれません。バレンボイムとWEDO、なかなかアツい奴らです。


コメント

_ sony ― 2012/07/29 23:37

いつもタイトルに惹かれます。WEDOについては知りませんでしたので調べたら1999年に設立され、2007年には高松宮殿下記念世界文化賞の若手芸術家奨励制度に選ばれたいるのですからかなりの実力があるのでしょう。
コメントからバレンボイムらしさが出ていたように思われました。
たしかバレンボイムはオリンピックの開会式のオリンピック旗入場に一番後ろでもっていたようにおもわれますが・・・ バレンボイムはタフですね。

_ Miklos ― 2012/07/30 02:04

WEDO、私の率直な感想では、実力はまだまだでした。ぬくもりのある音と演奏の熱気でカバーしている、ユニークなオケではありました。

ブログが追いついてないのですが、開会式の日は「第九」の演奏会(これも一応開会式の一部)があって、そのあと開会式イベントでも国連事務総長らと一緒に旗を持って出てくるとは、私も思いませんでした。これはいよいよ、ノーベル平和賞への布石なのかもしれませんね。

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