ロイヤルバレエ:トリプルビル(誕生日の贈り物/田園の出来事/結婚)2012/07/06 23:59

2012.07.06 Royal Opera House (London)
Royal Ballet: Birthday Offering / A Month in the Country / Les Noces

久しぶりのトリプルビルです。アシュトン振付け2本とストラヴィンスキーの「結婚」という比較的クラシカルな取り合わせだし、実はまだ見たことがないコジョカルを何とか見たいと思って、今シーズンではもうこの演目しかなかったのでチケットを取りました。


1. Glazunov: Birthday Offering (arr. Robert Irving)
Thomas Seligman / Orchestra of the Royal Opera House
Frederick Ashton (Choreography)
Dancers: Marianela Nuñez, Thiago Soares
Yuhui Choe, Laura Morera, Itziar Mendizabal
Roberta Marquez, Helen Crawford, Sarah Lamb
Alexander Campbell, Ricardo Cervera, Valeri Hristov
Brian Maloney, Johannes Stepanek, Thomas Whitehead

まず最初は「誕生日の贈り物」。ストーリーは特になく、音楽はグラズノフの「四季」や「演奏会用ワルツ」などから選択してアーヴィングが編曲し、アシュトン振付けの下、1956年にフォンテイン等により初演されています。今日の主役はヌニェスとソアレスの夫婦ペア。他にもプリンシパルではモレラ、マルケス、ラム、ファーストソリストではユフィちゃん、メンディザバル、クローフォード(小林ひかるの代役)、セルヴェラ、ヒリストフ、ステパネクと、かなり贅沢な布陣。女子は特に各々ソロがあるので、トップダンサー達の競演が興味深かったです。

トップバッターのユフィちゃんは、しなやかな動作とコケティッシュな腰振りが堂に入っていて、なかなか良い。ほとんど完璧に見えました。続くモレラは非常にキレのある回転技で、ティアラの金具がぽんぽん吹っ飛ぶくらいでした(後の人がアクシデントで踏まないかと、ちょっとヒヤヒヤしました)。顔もキャラクターもモレラとめちゃカブると思っていたメンディザバルは、こうやって連続して踊りを見るとまだまだ突き抜けたところに欠けて普通の印象。フルレングスのバレエ以外では初めて見るマルケスは難しいキメのポーズで思いっきりグラついて失笑を買っていましたが、でもあれを毎回100%キメろというのは、ちょっと気の毒。その後二人はあまり記憶になく(意識を失っていたか…)、トリのヌニェスは、さすが真打ちというか、姿勢の美しさと動作一つ一つのきめ細かさと安定感は、このプリンシパル競演の中でも明らかに抜きん出ています。やはりこの人は別格ですね。


ずらっと並んだベテランダンサーたち。もっとアップで撮りたかったが私のカメラでは…。


ヌニェスとソアレスはエースの風格。


2. Chopin: A Month in the Country (arr. John Lanchbery)
Barry Wordsworth / Orchestra of the Royal Opera House
Frederick Ashton (Choreography), Kate Shipway (Piano)
Alina Cojocaru (Natalia), Federico Bonelli (Beliaev)
Jonathan Howells (Yslaev), Paul Kay (Kolia)
Iohna Loots (Vera), Johannes Stepanek (Rakitin)
Tara-Brigitte Bhavnani (Katia), Benjamin Ella (Matvei)

続いて同じくフレデリック・アシュトン振付けの「田園の出来事」は、ツルゲーネフの戯曲をベースにした台本にショパンの初期作品3曲、「ドン・ジョヴァンニ」の主題による変奏曲(Op. 2)、ポーランド民謡による大幻想曲(Op. 13)、アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ(Op. 22)を組み合わせたアシュトンの代表作。40分ほどの短時間の中に女心の機微と甘美な恋情が凝縮され、ほろ苦い後味が残る、なかなかの秀作だと思います。舞台もバロックオペラのように立体感ある大道具で議古典的な雰囲気。美しく優雅な振付けと相まって、コンテンポラリー苦手な我が家もこれなら安心です。

ストーリーは要約すると、裕福な地主イスラーエフの妻ナターリアが、息子コーリアの家庭教師としてやってきた若者ベリャーエフに恋情を抱くが、同じく彼に恋している娘のヴェーラにそれをバラされ、ベリャーエフは去っていく、というお話です。この家にはイスラーエフの親友でありながらナターリアを愛するラキーチンという同居者もおり、状況を少々複雑にしています。

初めて見るコジョカルは小柄ですらっとした妖精系美人。よろめき妻の役にはちょっと雰囲気が幼いかも、と最初は思いましたが、熟女のしとやかさと女心の変化点はたいへん上手く表現されていたと思います。ただし、けっこうカラッとしていて寂寞感は薄かったです。倦怠した人妻の憂いとか、高揚してしまったみっともなさとか、そういう負の部分が少し出ていれば、深みも増したのではないかと感じました。次シーズンはフルバレエで見てみたいです。他には、息子のケイと娘のルーツ、それにラキーチンのステパネクが皆さん芸達者で、脇をしっかりと固めていました。音楽は、私ゃやっぱりショパンは苦手、ピアノもただ楽譜通りに弾いているという感じだけで(バレエの伴奏だから仕方ないのでしょうが)、全然心に残らなかったです。



コジョカルは永遠の美少女系でした。


3. Stravinsky: Les Noces
Barry Wordsworth / Orchestra of the Royal Opera House (Percussion Section)
Royal Opera Chorus
Bronislava Nijinska (Choreography)
Robert Clark, Philip Cornfield, Paul Stobart, Geoffrey Paterson (Piano)
Rosalind Waters (S), Elizabeth Sikora (Ms)
Jon English (T), Thomas Barnard (Bs)
Kristen McNally (Bride), Valeri Hristov (Bridegroom)
Elizabeth McGorian, Alastair Marriott, Genesia Rosato, Gary Avis (Parents)

最後はストラヴィンスキーのいわゆる原始主義の最後を飾るバレエ曲「結婚」。ヴァーツラフ・ニジンスキー振付けによるエポックメイキングな「春の祭典」がパリのバレエ・リュスで初演されたのが1913年。それからちょうど10年後の1923年、「春の祭典」初演で生贄の乙女を踊る予定だったが妊娠のためキャンセルしたブロニスラヴァ・ニジンスカ(ヴァーツラフの妹)の振付けで初演されたのがこの「結婚」です。バレエ曲とは言え、現代人の目からしてもこれが踊るために作曲されたとはとても思えない、春の祭典をさらに煮詰めて骨だけ取り出したような、変拍子バリバリの硬派な曲です。不協和音が多少穏やかで、民族音楽色が色濃いのはひとえにその異質な編成(4声独唱、コーラス、4台のピアノ、打楽器)のおかげでしょう。CDも結構豊富に出ている著名曲で、我が家にあるのはエトヴェシュ指揮、コチシュのピアノにアマディンダ打楽器アンサンブルが加わったハンガリー精鋭の演奏。


オケピットにピアノが4台も入るとは。

休憩後、今にも幕が上がろうかというタイミングで、技術的問題により2分待ってくれ、というアナウンス。私ももう英国在住3年になりますので、イギリス人が「two minutes」とか「two seconds」とか言うときは要するにすぐには終らないという意味で、良くても10分は待たされるということは常識としてわきまえておりますが、結局5分ほどで幕は開きました。今日の裏方はなかなか優秀です。

20分程度の短い作品ですが、何度見てもよくわからないバレエです。祝賀の華やかさなどまるで感じられない、田舎の質素な結婚式を模したカントリーダンスが延々と続きますが、初演当時はこれこそが「コンテンポラリーダンス」だったのかもしれません。マリインスキー劇場が同じニジンスカ版を上演した映像を以前見たことがありますが、明らかに変拍子について行けてない、動きの違うダンサーがあまりに多いので驚いた記憶があります。今日のロイヤルバレエはそれに比べるとかなり練習を重ねたのがよくわかる、シンクロ率の高いパフォーマンスでした。一度は生で見てみたかったこの「結婚」、何だか不思議なものを見た、という余韻だけが残る、謎の作品でした。今日は中身が濃くって疲れたわ〜。


ヒロインのマクナリーは、「アリス」のいかれた料理人とは打って変わり、淡々とクールな踊りに徹していました。

Queen + Adam Lambert @ Hammersmith Apollo 初日2012/07/11 23:59


2012.07.11 HMV Hammersmith Apollo (London)
Queen + Adam Lambert
Brian May (G, Vo), Roger Talor (Ds, Vo), Adam Lambert (Vo)
Spike Edney (Key, Musical Director), Neil Fairclough (B), Rufus Taylor (Ds, Perc)

このライブ、元々はクイーンのバンド結成40周年を記念してネブワースのロックフェスSonisphereにヘッドライナーとして出演する予定が、ロックフェス自体が開催中止になり、では単独でやろうという、クイーンファンにとってはむしろ願ってもない「瓢箪から駒」の話になったようです。ポール・ロジャースとの衝撃的なツアーから早7年、今回は米国のオーディション番組「American Idol」出身でTVではすでに共演している若手シンガー、アダム・ランバートをボーカルに迎えて、キエフ、モスクワ、ヴロツワフ(ポーランド)にロンドン2日間(後で追加公演が1日プラス)というミニツアーに結局落ち着きました。ロンドンの会場は初期のころ数々のライブをこなしてきたハマースミス・アポロ(当時の名称はオデオン)。まさかハマースミス・オデオンに生クイーンを見に行くなんてことが今更自分の身に起ころうとは、これっぽっちも想像しませんでした。

当然ながらロンドンの3日間とも即日完売のプラチナチケットで、後日出たリターンを何とか運良くゲットできたのですが、もう若くはないのでオールスタンディングのストールではなく、上階サークル後方の着席にしました。普通ならクイーンはスタジアム級の箱でしかパフォーマンスしないバンドであることを思えば、肉眼で見えるのだから近いものです。周りを見渡すと、年齢層の高いこと高いこと。どう見ても60歳は超えてそうな人もたくさんいました。


ステージまではこのくらい遠いです…。

アダム・ランバートは派手な衣装を何度も着替えながら、でも足は裸足で熱唱。ポール・ロジャースがAll Right Now等自分の持ち歌もいくつか入れて来たのと対象的にアダムは潔く全てクイーンナンバーで通しました。歌はそれなりにしっかり歌えていたのが驚きですが、やっぱり多少の気後れがあるのか、あるいは歌に集中するあまりか、仁王立ちでマイクを持つ場面が多く、パフォーマー、エンターテイナーとしての「格」は、ポール・ロジャースやジョージ・マイケルとは(もちろんフレディとも)比較するのが気の毒です。また、ポールがフレディのコピーをやる気などこれっぽっちもなく、見事に自分の歌として消化していたのに比べ、やっぱりアダムはフレディの節回しに引きずられている歌い方になっていて(まあ、しょうがないですけどね)、もっと吹っ切れたほうが結局は良いのになあ、と思ってしまいました。


アダムのたたずまいはカッコいいので、もっとハジケて動いてくれればよかったんですが…。

ブライアン・メイ、ロジャー・テイラーともにもうすぐ誕生日で、各々65歳、63歳になるんですなあ。二人ともすっかり白髪で老人顔になり、ロジャーなどは昔のキュートボーイは見る影もなく、お腹ポッコリの好々爺、という感じです。7年前はさすがにここまで老け込んではいなかったと思います。いつものごとく二人とも自分の持ち歌でメインボーカルを取りますが、声が出てなかったです。ブライアンのギターは(もちろん若いころほどの勢いはないものの)まだ往年のプレイを維持していましたが、ロジャーのドラムは手が回っておらず、息子のルーファス君が単なるパーカッションの色添え以上に父親のドラミングをサポートしていたおかげで何とか最後までもった、という感じでした。死ぬまで元気バリバリだと思っていたこの人達にも老いはやってくるんだなあと、ちょっと淋しくなりました。誤解を恐れず正直な感想を言うと、こないだ見たミュージカル「We Will Rock You」のほうが、バンド演奏という意味では数段上だったかなーと。でも、何だかんだ言っても、生きて動いている本物のブライアンとロジャーをまた見れたというだけで、わざわざ足を運んだ値打ちはあったし、ステージングは素直に楽しめるものでした。最後のほうは火は噴くわ、花火は上がるわで、オデオンの狭いステージがたいへんなことになっていました。



ドラムを息子のルーファスに任せ、自分はマイクを持って熱唱するロジャー。ポッコリお腹が気になります…。

ところでちょっと不快に思ったのは、演奏中のほとんど最初から最後まで、写真やビデオを撮ってる人の何と多いこと。スマホの性能が上がったからそういうこ ともできるようになったわけで、昔だったら考えられないことですよね。私も少しだけですがこっそり写真は撮ったので人のこと言えませんが、周りのことなど お構いなしにスマホを高く掲げてずっと録画している輩は、はっきり言って邪魔以外の何物でもない。お前はいったい何しに来たんじゃと。



最後はアダムがクイーンTシャツを着て登場。ブライアン、ロジャーとの競演は、彼にとっては夢のような体験でしょう。

Hammersmith, 11th July: Set List

Flash (intro)
Seven Seas Of Rhye
Keep Yourself Alive
We Will Rock You (Fast)
Fat Bottomed Girls
Don’t Stop Me Now
Under Pressure (Roger/Adam duet)
I Want It All
Who Wants To Live Forever
A Kind Of Magic (Roger)
These Are Days Of Our Lives (Roger)
The Show Must Go On (part) (Brian)
Love Of My Life (Brian)
'39 (Brian)
Dragon Attack
Drum Battle / Guitar Solo
I Want To Break Free
Another One Bites The Dust
Radio Ga Ga
Somebody To Love
Crazy Little Thing Called Love
Bohemian Rhapsody
---
Tie Your Mother Down (Brian)
We Will Rock You
We Are The Champions

ケープタウン・オペラ:ポーギーとベス2012/07/14 19:59


2012.07.14 London Coliseum (London)
Cape Town Opera: Porgy and Bess
Albert Horne / Orchestra of the Welsh National Opera
Christine Crouse (Director), Sibonakaliso Ndaba (Choreographer)
Xolela Sixaba (Porgy), Nonhlanhla Yende (Bess)
Mandisinde Mbuyazwe (Crown), Philisa Sibeko (Clara)
Arline Jaftha (Serena), Tshepo Moagi (Sportin’ Life)
Gloria Bosman (Maria), Mthunzi Mbombela (Robbins)
Owen Metsileng (Jake), Mandla Mlangeni (Trumpeter)
Cape Town Opera Chorus
1. Gershwin: Porgy and Bess

南アフリカから来たケープタウン・オペラのUKツアーです。バーミンガム、エディンバラ、カーディフ、カンタベリーを回って最後がロンドン。「ポーギーとベス」はなかなか見れる演目ではないので、何はともあれ見ておこうと。

一応オペラに分類される「ポーギーとベス」ですが、様式的にはミュージカルの走りとも言われ、確かにこの演出だとノリはほとんど歌って踊るミュージカル。歌手もオペラ系とミュージカル系が混在し、声量自体と声の響かせ方に個人差が相当あります。ポーギー役のバリトン(この人に限らず名前の読み方はさっぱりわかりません・・)はしっかりした歌唱で、演技も良かったです。ベスは声量がちょっと足りないものの、若さが故のふらつきやすさはよく感じが出ていました。何より、ベスが巨漢のおばさんじゃなくて良かった。クラウン、スポーティンライフ等の準主役クラスもそれなりのレベル以上で、まあ良かったのですが、それ以外の端役・群集はけっこうグダグダなコーラスで、底の高い歌劇団とは言えませんでした。

ストーリーは、海辺の黒人居住区「なまず横丁」で足の不自由なポーギーが、ならず者の夫クラウンが殺人を犯して逃げた後の妻ベスを匿って口説き、住人が皆でピクニックに行ったり、ハリケーンがやってきて漁師夫婦が死んだりといった事件の後、戻ってきたクラウンをポーギーが殺し、警察に拘留されている間にベスは麻薬売人のスポーティンライフに口説かれてニューヨークに行ってしまう、という、何ともハチャメチャで救いようのない話です。全体のトーンは暗いのですが、シリアスかと思えば笑いもあり、第3幕のベスの豹変ぶりはもうほとんど吉本ギャグの世界。ベスを追うため、明るく希望に満ち溢れてニューヨークへと旅立つポーギーは、見方によっては意味深な解釈もありでしょう。まあしかし、もう一回見たいと積極的に思うオペラではなかったですかなー。

このUKツアーではウェールズ国立オペラのオケが帯同しましたが、堅実な演奏で感心しました。ROHのオケよりマシかも。なお9月には再びツアーに出て、ベルリンでこの「ポーギーとベス」を、何とラトル指揮ベルリンフィルと一緒に公演するとのこと。歌手はもうちょっと底上げしたほうがよいんじゃないかと思います。



Queen + Adam Lambert @ Hammersmith Apollo 最終日2012/07/14 23:59


2012.07.14 HMV Hammersmith Apollo (London)
Queen + Adam Lambert
Brian May (G, Vo), Roger Talor (Ds, Vo), Adam Lambert (Vo)
Spike Edney (Key, Musical Director), Neil Fairclough (B), Rufus Taylor (Ds, Perc)

クイーン+アダム・ランバートの最終日。初日をすでに見ていますし、昼に「ポーギーとベス」を見た後、ほとんどその足でライブを見に行くのはけっこうキツイと思ったのですが、まあせっかくチケットを買ったので老体に鞭打ってがんばってみました。

初日が25分くらい待たせたのに対し、今日は15分遅れで始まりました。DVDのためのビデオ撮りがあるとの噂があり、また初日・二日目の様子はすでにたくさんYouTubeやブログにアップされていたので追加公演である最終日のチケットホルダーはもう十分に期待を煽られていて、会場の熱気は相当なものでした。

ショーの構成はほぼ同じなので意外性はありませんでしたが、初日で時々気になったハウリングが今日はなく、初日と比べてバンドの音がずいぶんと固まっていました。今日のロジャーは黒いシャツをダラリと出して、ポッコリお腹が目立たないようにしていました。ブライアンは初日より相当調子が良さそうで、張り切りすぎて最後のTie Your Mother Downで弦を切ってました。アダム君も調子はさらに上がっていましたが、相変わらず動きは大人しい。ブライアンはもう65歳なんだから、その分も君がもっと走りなさい!

毎回ほぼ同じのセットリストの中で、ブライアンのアコースティックコーナー冒頭は毎回違う曲を一部分だけ弾き語ります。初日はThe Show Must Go On、二日目はSomebody To Loveでしたが、今日は意外なところでYou're My Best Friend。初日ではやらなかった本チャンのThe Show Must Go Onは、今日はラス前にちゃんと仰々しくやってくれました。これがここまで歌えるのだから、アダムは確かに良いシンガーです。

さて今回のクイーン+アダム・ランバート、今後ツアーを西ヨーロッパ、アメリカ、アジアまで拡大していくのかどうかは知りませんが、クイーンファンにオススメできるかどうかは、ちょっと微妙。クイーンのライブを追体験するんだ、という風に割り切れば十分楽しめるものでしょう。でも、一気に老いてしまったブライアンとロジャーを見るのは辛いと感じる人も多いかも。

Hammersmith, 14th July: Set List

Flash (intro)
Seven Seas Of Rhye
Keep Yourself Alive
We Will Rock You (Fast ver.)
Fat Bottomed Girls
Don’t Stop Me Now
Under Pressure (Roger/Adam duet)
I Want It All
Somebody To Love
Who Wants To Live Forever
A Kind Of Magic (Roger vo.)
These Are Days Of Our Lives (Roger vo.)
You're My Best Friend (part) (Brian vo.)
Love Of My Life (Brian vo.)
'39 (Brian vo.)
Dragon Attack
Bass Solo
Drum Battle
Guitar Solo
I Want To Break Free
Another One Bites The Dust
Radio Ga Ga
Crazy Little Thing Called Love
The Show Must Go On
Bohemian Rhapsody
---
Tie Your Mother Down (Brian vo.)
We Will Rock You
We Are The Champions
God Save The Queen

LSO/ゲルギエフ/フレミング(s):シェヘラザードとペトルーシュカ2012/07/15 23:59


2012.07.15 Barbican Hall (London)
Valery Gergiev / London Symphony Orchestra
Renée Fleming (S-2,3)
1. Debussy: La mer
2. Henri Dutilleux: Le temps l’horloge (UK premiere)
3. Ravel: Shéhérazade
4. Stravinsky: Petrushka (1911 ver.)

LSOのシーズンフィナーレは「フレミング効果」で早々にソールドアウトになってしまったため、私もずいぶん後になってからリターン狙いで、普段なら買わない高い席を選択の余地もなくゲットしました。

1曲目はドビュッシーの交響詩「海」。ゲルギエフはその外見のむさ苦しさと相反して、意外とフランスものを得意としていますね。繋ぎ目なしで一気に流した演奏は繊細の極致で、オケの集中力も素晴らしかったです。トランペットもホルンも完璧で惚れ惚れしました。オケが良いのは当然として、ゲルギーの細部を彫り込む解釈とコントロールも冴えていて、上手く言えないのですが、極上の鮮魚を切って並べただけでなく、一仕事も二仕事も入っている究極の寿司、という感じですか。

続いて待望のフレミング登場。オペラ、演奏通じて実は初めて見ます。デュティユーの歌曲「時と時計」はフレミングのために2007年に作曲され、小澤征爾指揮サイトウキネンオケとの共演で松本にて初演されました。UKでは今日が初演。二管編成にハプシコードやアコーディオンも加わる幻想的な曲で、つかみどころのない不思議なオーラを放っています。デュティユー(ってまだ現役なんですねー驚き)の曲はほとんど聴いていませんが、フレンチテイストのようでいて、仏教にも通じる「無の境地」を感じます。フレミングは表現力に卓越した歌手に思えましたが、この耳に新しい曲だけではまだ何とも。


休憩後、再び登場のフレミングで今度はラヴェルの歌曲集「シェヘラザード」。この曲は音源を持っておらず、2004年のブダペスト以来8年ぶりに聴きま す。意味深な歌詞にラヴェルの熟達した管弦楽法が絡み合ったオシャレな佳作です。フレミングの歌はそりゃー上手いし、繊細だし、情緒もありましたが、声自 体は普通で、私の好みとはちょっと違うかなと。オペラはもう大劇場でスポット的にしか出てないようですが、もうちょっと若いころは声に厚みがあってさぞ舞 台映えするソプラノだったんだろうと思います。チケット争奪の激しさを考えると、どうしてもまた聴いてみたい歌手とは思えなかったです、すいません。


最後の「ペトルーシュカ」は1911年版。今シーズンのストラヴィンスキーシリーズの最終でもあります。オケ奏者的にはイラっとする曲ばかり続いたせいで最後に集中力が切れたか、あるいは単なるリハ不足か、だいぶアラが目立ちました。トランペットのコッブは珍しく音を外すし、もっと珍しいのはティンパニのトーマスも1小節飛び出してしまう大ポカをやらかし、何だか落ち着きがありませんでした。本来は主役で活躍するはずのピアノも何だか地味で引っ込んでいて、ちぐはぐな「ペトルーシュカ」でした。ゲルギーのアイデアは豊富でいろいろとやらかそうとするけれど、まだオケと一体化していないんじゃないかという印象です。ペトルーシュカはできたら舞台付きで見たいものです。人形劇では見ましたが、一度バレエで見てみたいですなー。

2012プロムス04:ジョン・アダムズと英米ヤングアーティストたち2012/07/16 23:59


2012.07.16 Royal Albert Hall (London)
BBC Proms 2012 PROM 4
John Adams / Juilliard Orchestra + Orchestra of the Royal Academy of Music
Imogen Cooper (P-2)
1. Respighi: Roman Festivals
2. Ravel: Piano Concerto in G major
3. John Adams: City Noir (2009)

今年もまたBBCプロムスの季節がやってきました。私自身の今年の開幕は、ジュリアード音楽院と英国王立音楽院(RCM:ロイヤルカレッジではなく、RAM:ロイヤルアカデミーのほう)のジョイント学生オケ。このチケットはひとえに「ローマの祭」を聴きたいがために買いました。「ローマの祭」は昔から大好きな曲なのですが「松」「噴水」に比べると実演に接する機会が少なく、記憶をたどると10数年前に新婚旅行のウィーンで聴いたのと(ムーティ/スカラ座管)、その前だと約30年前に京大オケ(指揮は山田一雄だったかと)で聴いたくらいで、生演にたいへん渇望している曲であります。

ジョイントオケだけあって人が多いです。誰がジュリアードで誰がRAMかは区別がつきませんが、男女共たくさんいた東洋系の若者はおそらくほとんどジュリアードで、しかも顔つきから見て日系じゃなく中国系か韓国系でしょう。実際ジュリアード側のコンマスは(後ほどBBC Radio 3の中継で聴いたところによると)韓国系の麗しき女性でした。ちなみにRAM側のコンマスは白人のメガネっ娘美人。この二人が椅子を並べている指揮者の左横に、ほとんど目が釘付けになってしまいました(爆)。

待望の「ローマの祭」は元々が大編成の祝祭的な曲なので、人海戦術が功を奏して祝賀的雰囲気はよく出ていました。ジョン・アダムズは自作以外でどのくらい指揮の実績があるのか知りませんが、大げさにテンポを揺らしてベタベタに仰々しい音楽を作る人のようです。学生オケだししかも慣れないジョイントオケなので反応はあまり良くなく、管楽器のソロも褒められたのはクラリネットくらいで、あとはまだまだって感じでした。ホルンは音を聴くとなかなか良い音を出しているんですけど、ソロは苦手な様子。LSOあたりで、参りましたーとひれ伏すくらい圧巻な「ローマの祭」を一度は聴いてみたいものですけど、そんなチャンスはなかなかありませんなー。

続いてオケは編成をぐっと減らし、イモゲン・クーパーを迎えてのラヴェルのピアノコンチェルト。クーパーは軽くて音の粒が異常に均質化されたシーケンサーのようなピアノでしたが、そのわりには最初ミスタッチが目立ってハラハラしました。第2楽章もある意味珍しいくらいに四角四面の杓子定規なピアノで、面白みを一切感じませんでした。クーパーは2005年にブダペストで一度聴いていますが、そのときの備忘録を読み返すとクーパーのピアノに関してほとんど同じ感想が書かれていて、笑いました。そりゃそうだ、プロとしてポジションを確立している人がそうコロコロとスタイルを変えるはずもないです。小編成の学生オケは、もちろん名門校だから技量的に問題はないんですが(トランペットなどは大したものでした)、各奏者の音の線はまだまだ細く、やけに静かなラヴェルになっていました。

休憩後のメインはアダムズの比較的新しい管弦楽作品「シティ・ノワール」。再び大編成のオケにサックスとジャズドラムが加わり、大都会の退廃とエネルギーをジャズやアフリカンリズムを取り入れながら表現した曲で、作曲の文法は至って古典的、雰囲気はまるで映画音楽のようでした。ジュリアードのような学校の学生オケならば、クラシックの人が片手間にやっているのではない、キレキレのソロを吹くサックスが混じっていてもおかしくないなと勝手に期待していましたが、現実はそんなことはなく。ドラムスも、いやいややってます感がありあり。まあしかし全体としては、まだ評価の定まらぬ新曲にひたむきに取り組む音楽家の卵達は初々しく、応援のエールを惜しみなく送ってしまった夜でした。


ソリスト、指揮者もそっちのけでコンマス追っかけるのに必死です(笑)。


ピンボケ悲しいですが、私の機材ではこれが限界。それにしても全くタイプの違うビューティーコンミスが揃って、目の保養になりました。

2012プロムス12:バレンボイム/WEDO:田園の運命やいかに2012/07/23 23:59


2012.07.23 Royal Albert Hall (London)
BBC Proms 2012 PROM 12
Daniel Barenboim / West–Eastern Divan Orchestra
Guy Eshed (Fl-2), Hassan Moataz El Molla (Vc-3)
1. Beethoven: Symphony No. 6 in F major, 'Pastoral'
2. Pierre Boulez: Mémoriale ('... explosante-fixe ...' Originel) (1985)
3. Pierre Boulez: Messagesquisse (1976)
4. Beethoven: Symphony No. 5 in C minor

バレンボイム/ウエスト=イースタン・ディヴァン管(WEDO)によるベートーヴェンの交響曲全曲演奏会は今年のプロムス最大の目玉で、チケットも早々に売り切れていました。週末からようやくやってきた夏らしい天気も手伝って、立ち見チケットを求めるプロマーの長い列が出来ておりました。場内に入るとおびただしい数のテレビカメラが。てっきり生中継かと思えば、放送は26日でした。

WEDOを聴くのは全く初めてです。一昨年のプロムスにも確か来ていましたが聴くチャンスがありませんでした。イスラエルとアラブ諸国の若い音楽家が集まった楽団というので学生オケのようなものを想像していたら、メンバーは意外とアダルト。確かに若いんですが、シモン・ボリバルほど若くもない。第1ヴァイオリン16、コントラバス8という弦の編成は昨今のベートーヴェン演奏ではむしろ少数派に属する大所帯で、その点はアマチュア楽団の様式が残っています。なお、コンマスはバレンボイムの息子、マイケル君。

地平線から輪郭のぼやけた朝日が徐々に顔を出すがごとく厳かに始まった「田園」は、暖かみのある木目調の音。まるでイスラエルフィルみたいに渋い弦の音に、彼の地の伝統を見た気がしました。ゆったりとビブラートをかけつつ、ゴツゴツとした肌触りで進む「田園」は、ピリオド系何するものぞという巨匠時代の残照。バレンボイムがフルトヴェングラーのコピーだという揶揄を時々聞くものの、私はその本家フルトヴェングラーの演奏はほとんど聴いたことがないので判断できませんが、この大時代的なベートーヴェンを目の当たりにして、言われていることは確かに分かる気がします。

続くブーレーズの「メモリアル」は独奏フルートにヴァイオリン3、ヴィオラ2、チェロ1、ホルン2という編成の室内楽。バレンボイムの指揮付きでした。私はこの手の音楽の理屈は未だによくわからないので感覚的に聴くしかないのですが、テイストはまさに20世紀のゲンダイオンガク、21世紀にはすでに絶滅してしまったような音楽に思えました。

プログラムではここで休憩となっていたのでいち早くトイレに行って用を足していたら、「まだ休憩ではありません、席に戻ってください」というアナウンスが聞こえたので慌てて席に戻りました。次も短い曲なので先にやってからインターバルにするということにいつの間にか変わっていたみたいなのですが、周知徹底されておらず(私も知らなかった)、すでに会場の外に出ている人、バーに並んでいる人などが多数いて、この曲だけ客席に空席が目立ちました。これはマネージメントの不手際でしょう。奏者は気の毒です。

同じくブーレーズの「メサジェスキス」は独奏チェロと6人のチェロ奏者というチェロづくしの編成。これもバレンボイムの指揮があり、チェロアンサンブルというモノクロームな楽器の特質のおかげか、さっきの曲よりは直情的で、エネルギーの噴出が直に伝わってくる曲でした。難解な曲ながらもチェロソロの活躍が聴衆の心をつかみ、やんやの喝采を浴びていました。

メインの「運命」は、過去に演奏会で聴いた記憶が、どうしても思い出せません。ゼロということはないと思うのですが、プロの演奏では多分聴いてないと思います。あまりに通俗的すぎてプロオケのプログラムには意外と取り上げられませんし、自分もあえてこれを目的に足を運ぶこともなかったので。中1の4月、部活を選ぶのに友達に誘われて何の気なしに見学に行ったオーケストラ部で、ちょうど先輩達が総練していたこの「運命」が、まさにその後の自分の運命を決めたのだから、自分に取って特別な曲ではあるのです。

ジャジャジャジャーーンと、まさに大見得を切るように始まった「運命」。巨匠時代風とは言え、カラヤンのようにスポーティに走り抜く筋肉質な演奏とは全く違って、あくまでゴツゴツとぎこちなく泥臭い進行です。正直、決して上手いオケとは言えず、応答が鈍くて崩壊しかけた箇所も実際ありましたが、ホルンとヴィオラが相対的にしっかりとして中盤を固めているので、全体の音は一本筋が通って引き締まっています。これもある意味、古き良き時代の遺産的「運命」なのかもしれません。バレンボイムとWEDO、なかなかアツい奴らです。


2012プロムス13:バレンボイム/WEDO:エレクトリック&ディスコ・ミュージック2012/07/24 23:59

2012.07.24 Royal Albert Hall (London)
BBC Proms 2012 PROM 13
Daniel Barenboim / West–Eastern Divan Orchestra
Michael Barenboim (Vn-2), IRCAM (Live Electronics-2)
1. Beethoven: Symphony No. 8 in F major
2. Pierre Boulez: Anthèmes 2 (1997)
3. Beethoven: Symphony No. 7 in A major

前日に続き、ウエスト=イースタン・ディヴァン管のベートーヴェン・チクルス。オリンピックも近づいて、今日は観光バスで乗り付けた団体客が多かったようです(オリンピック観戦+BBCプロムス演奏会付きツアーでしょうかね)。

最初の第8番では、バレンボイムは昨日と比べてだいぶ大雑把で、団員の自発的なリズムに任せるかのような指揮でした。大げさなアゴーギグもなく、昨日のゴツゴツした進行とは打って変わって軽やかなベートーヴェン。今日もコーラス席からの鑑賞でしたが、後ろから見ていてあれっと思ったのはティンパニ。最初、昨日と違ってドイツ式(音の低いほうが右手)で叩いていたので違和感があったのですが、確かにこの曲のティンパニは古典期として画期的で、第1、第3楽章はFとC、第4楽章はFとオクターブ上のFでしかも高速で交互に二度打ちするという特殊な使い方をするので、なるほど第4楽章の演奏しやすさを優先して左からC、F、F(オクターブ上)という配置にしたのね、とすぐに納得。これはこれで器用な奏法ですが、ティンパニ君はそれで飽き足らず、終楽章では本来ないはずのCもいっぱい叩いていました。私は初めて見ましたが、合理的なので、こういう叩き方をする人は他にもいっぱいいそうです。


ティンパニ君は音が良く、なかなかよい奏者でした。

今回のチクルスはプログラムの埋め草にベートーベンの序曲や協奏曲を持ってくるのではなく、ベートーヴェンとは時代も作風も極端に違うブーレーズの作品を組み合わせているところがユニーク。今日は「アンセム2」というヴァイオリン独奏に電気的エフェクトをかけた曲で、従ってバレンボイムの指揮はなし。その代わりというわけでもないですが、演奏はWEDOのコンマス、マイケル・バレンボイム。ステージの前側に横一列に7つ並べた譜面台を端から順番に弾いて行くので、奏者の立ち位置で曲がどのくらい進んだか分かるのが便利です。ヴァイオリンと電子楽器の競演という曲でもなく、あくまで主役はヴァイオリンソロで、その音にエフェクトをかけて元の音に被せていくという趣向のようですが、曲自体はワケワカラン系でした。「アンセム2」という曲名はもちろん英語で言う「anthem」ですが、「anti+thematic」の意味もかけてあるそうで、また電気エフェクトの響き方には偶然性も絡んでいそうです。結構深い曲なのかも。


この立見の大観衆を目の前に一人で演奏するのは、緊張したでしょうね。

休憩後のメインは第7番。昨日から見ていてここまでのバレンボイムは、演奏開始前や楽章間にたっぷり時間を取って汗を拭っていたりしていましたが、第7番は登場するなり拍手も鳴り止まないうちにいきなり振り始めました。あからさまにギアチェンジです。やっぱり細かく拍を刻むのではなくおおらかな指揮でしたが、リズムはノリノリで、楽団員の若さが良い効果となって熱い演奏になっていました。バレンボイムはこの流れを止めまいと、楽章間の間合いをやめ、間髪入れず次に進みます。終楽章の前だけはハンカチでちょっと汗を拭いていましたが。この曲をディスコミュージックと呼んだのはグレン・グールドか、バーンスタインでしたっけ?飛び跳ねながら畳みかけるように終った後、聴衆は前日以上に興奮のるつぼ、異常な盛り上がりでした。


いつも丁寧に奏者を称えるバレンボイム。

2012プロムス18:バレンボイム/WEDO:五輪開幕を告げる歓喜の歌2012/07/27 23:59


2012.07.27 Royal Albert Hall (London)
BBC Proms 2012 PROM 18
Daniel Barenboim / West–Eastern Divan Orchestra
Anna Samuil (S), Waltraud Meier (Ms)
Michael König (T), René Pape (Bs)
National Youth Choir of Great Britain
1. Beethoven: Symphony No. 9 in D minor, 'Choral'

バレンボイム/WEDOのベートーヴェン・チクルス最終はもちろん「第九」でした。ロンドンオリンピック開会記念でもあるこのコンサートは開始時間が6時半と早く、交通機関の混乱は予測がつかないので、時間通り人が集まるのか不安でしたが、開演ギリギリで何とか客席は埋まっていました。コンマスのマイケル君は緊張したのか、まだ指揮者が登場しないのに楽団を立たせてしまって一度座り直すという段取りミスがあり、照れ隠しで大げさに頭を抱えていました。

前の2回はコーラス席でしたが今日は歌があるので正面のサークル席を取りました。アルバートホールはやっぱり残響が長過ぎて、ステージから遠いと何が何だかわからなくなってきます。さらには上がってきた熱気のおかげで空気が暑く、「暑がり」の私にはなかなか辛いものがありました。

踊るように陽気な7番、8番から一変して、今日はまたゴツゴツと古風な男らしいベートーヴェンに戻っていました。打てば響くようなオケではありませんが、暖かみと若いエネルギーが武器です。今日はコーラスも英国ナショナルユース合唱団の若者約200名という大所帯だったので、アラブ、イスラエル、英国というよく考えると微妙な取り合わせの若者達が仲良く「第九」を演奏するという図式になっていました。コーラスは男声の厚みが足らなかったので、大胆に人数を増やして欲しかったです。

歌手陣は、ルネ・パーペが期待通り張りのある良い声で、オペラチックな歌い方も彼なら許せるところですが、ちょっと音程の危ういところがあったのが残念でした。メゾソプラノのマイヤーもビッグネームですが、第九のこのパートはほとんど目立つところが無いのでどうしても割を食ってしまいますし、この人も何か喉が暖まり切ってない感じでピッチが低め。ソプラノのサムイルは一人ミュージカル歌手のようなキンキン声で浮いており、私の好みでもありませんでした。結局一番手堅かったのは急にキャンセルになった(理由不明)ペーター・ザイフェルトの代役で借り出されたミヒャエル・ケーニヒでした。この人、今年のバイロイトで刺青降板騒動のあった例の「さまよえるオランダ人」にもエリック役で出演しているんですね。

このように細かいところを見ていけば決して最良とは言えない演奏でしたが、祝典の賑わいとしては十二分に役目を果たすもので、楽しめました。「第九」1曲だけだったので、終ったらまだ夜の8時。突如降り出してきた大粒の雨に、今週はこんだけ天気が良かったのに開会式を狙い撃ちして降るとはさすがイギリスの天気、と感心してしまいました。


独唱は左からサムイル、マイヤー、ケーニヒ、パーペ。立ち位置はオケの後ろ、合唱の前でした。


このあとバレンボイムは、退場する楽団員一人一人に声をかけていっていました。