ロイヤルオペラ/アラーニャ/ゲオルギュー:ラブラブ20周年の「ラ・ボエーム」2012/06/23 23:59

2012.06.23 Royal Opera House (London)
Jacques Lacombe / Orchestra & Chorus of the Royal Opera House
John Copley (Director), Paul Higgins (Revival Director)
Angela Gheorghiu (Mimì), Roberto Alagna (Rodolfo)
Nuccia Focile (Musetta), George Petean (Marcello)
Yuri Vorobiev (Colline), Thomas Oliemans (Schaunard)
Jeremy White (Benoît), Donald Maxwell (Alcindoro)
Luke Price (Parpignol), Bryan Secombe (Sergeant)
Christopher Lackner (Customs Officer)
1. Puccini: La bohème

この「ラ・ボエーム」、シーズンプログラム発表当初ではアラーニャとフリットリがキャスティングされていて、どちらもまだ見てないので、これは「買い」かなと思っていたのですが、昨年9月の「ファウスト」上演の前後で突如ゲオルギューがフリットリを押しのけ、アラーニャと夫婦共演するという話になりました。私はこの二人はとっくに離婚したと思いこんでいたので、ヨリを戻しているのに驚いたのと、チケット争奪がますます大変になるなあという危機感、それに、どうせリハーサル中に大喧嘩して片方または両方共がドタキャンとか、いかにもありそうな不安な予感などなど、様々な感情が脳裏を過りました。今回の夫婦共演は2公演しかなく、初日を無事終えたという情報を聞いてさえ、今日は二人ともちゃんと出てくれるんだろうかという心配はありましたが、いの一番にプログラムで本日の出演者を確認、とりあえず心配は杞憂に終ってほっとしました。

さて「ラ・ボエーム」はブダペストで1回見たきりですので8年ぶりくらいです。甘い旋律にいちいちユニゾンの弦を重ねて盛り上げるというプッチーニ節が気分によっては胃もたれし、また、前半に比べて後半の間延びが私には退屈で、正直得意なオペラではありません。それでも、役者が揃ったこのプロダクションはROHならではの輝きで、一見の価値があるものでした。初めて聴くアラーニャは、並外れてよく通り色気たっぷりの声が吸引力抜群、こりゃー世のおばさん、いやいやレディー達が追っかけ回すのも納得です。ちょっと鼻声にも聴こえましたが普段の声を知らないのでそれがまた甘ったるくて人気の秘訣なのかも。最初のアリアのハイトーンがちょっと苦しかったりもしましたが、その後は余裕を取り戻し、達者な演技も相まって、光り輝く看板役者のロドルフォでした。対するゲオルギューは、オペラグラスでお顔をアップで見てしまうと可憐な小娘にはもう苦しいかなと思ってしまいますが(「ファウスト」のときは若作りに驚嘆したのに、何でだろー)、いかにも薄幸の演技と歌唱はベテランの風格で文句のつけようがなく、上手さに感嘆することしきり。この二人の発するオーラはまさにスターそのもの、ことさら際立っていました。

今日は久しぶりにプロンプタさんの活躍がありました。ゲオルギューの出るときは必ず出番がありますね。上のバルコニーボックスからはプロンプタがボーカルスコアを見ながら、絶えず手で何か指示を出しているのが見えました。もちろん歌詞も表示されているんでしょう。ただ今日不思議だったのは、第3幕でゲオルギューとアラーニャが舞台中央で足を止めてずっと抱き合っている間にも、プロンプタがまるで指揮をするようにずっと手を動かしていたことで、動作や動線を指示していたのではなさそうで、じゃあ一体何を教えていたのかと。指揮者とは別途に拍を振る必要もないわけで、歌詞のストリップを指差して「歌詞は今ここです!」なんて指示をだしていたのかしらん。謎だ。

今回はゲオルギュー、アラーニャがROHの「ラ・ボエーム」で初共演をしてから20年という記念の意味もありましたので、他のキャストは当然このスター二人の影になってまうのはいたしかたないところですが、なかなかどうして、ちゃんと歌えて役者もできる人が揃った、粒よりのキャスティングでした。ムゼッタのコミカルでコケティッシュな味付けもしっかり場を盛り上げ、マルチェロ他友人も皆プロの仕事を成し遂げました。指揮者は先月大好評だったビシュコフではなく、マウリツィオ・ベニーニの病気降板を受けての代役、ジャック・ラコンブという若いカナダ人でしたが、どのみち知らない人だったので先入観なしに聴くと、なかなか健闘したと言えるのではないでしょうか。ぽっと出の馬の骨ではなくしっかりとしたキャリアを持ち、物怖じすることなくプッチーニの音楽を自分の手中で転がしていました。

演出はもう何十年も続いている至ってオーセンティックなものでした。とりわけこの「ラ・ボエーム」に関しては、奇を衒ったモダンな演出はあまり見たくないと思いますね。うらぶれてはいるけどどこか気分をほっとさせる屋根裏部屋。いかにもという雰囲気のパリの居酒屋の裏路地が、ほとんどの席からは見えないであろう奥のほうまで細部にこだわって作りこんであり、手前の焼き栗屋がまた美味しそうなこと。第3幕の雪が降り積もる景色も美しく(馬車の中でコトの最中の警備員は、娘の教育上ちょっと困ったが)、どの幕も本当によく出来た舞台です。

終演後、隣りのボックスの人々がやおら大きな箱を取り出すと、中にはぎっしり花が。フラワーシャワーとはこうやるのかと、初めて見ました。うちの娘もいくつか投げさせてもらい、よい思いでになりました。