チェコフィル/インバル/ヤムニーク(vc):森そのものの「幻想交響曲」2012/01/28 09:00



2012.01.27 Dvořák Hall (Prague)
Eliahu Inbal / Czech Philharmonic Orchestra
Tomáš Jamník (Vc-1)
Schumann: Concerto for cello and orchestra in A minor Op. 129
Berlioz: Symphonie Fantastique Op. 14

プラハには何度も行ってるのですが、なかなかタイミングが合わなくて、今回ようやく念願かない、本拠地ドヴォルザーク・ホールでチェコフィルを聴くことができました。スメタナ・ホールがアール・ヌーヴォー様式なのに対し、こちらはネオ・ルネサンス様式なんだそうで、私はそのへんの見識はさっぱりですが、ホールの内装は確かに古代の神殿を思わせるゴージャスなものでした。ヨーロッパ最古のコンサートホールの一つだそうで、ウィーン楽友協会と同じく天井の高い箱型をしていますが奥行きはずっと狭く、舞台の頭上にも袖にも反響板らしきものは一切ありません。音響の良いホールとして知られており、確かに良い音はするのですが、私的にはちょっと残響長過ぎ。客席は傾斜のついたストール席と、結構高い位置にあるバルコニー席から成り、どこからも舞台が見やすそうでした。ステージのサイズや客席数から言って、ロンドンだとカドガン・ホールのクラスでしょう。




1曲目はシューマンのチェロ協奏曲。よくドヴォルザークとカップリングになっているチェロ協奏曲の名作ですが、何でか音源を持っておらず、ちゃんと聴くのは今日がほとんど初めて。ということで良し悪しや特徴はあまり語れません。トマーシュ・ヤムニークは1985年生まれの若手チェリストで、幼少からチェコ国内のコンクールを総なめにした後、カラヤン・アカデミーの奨学生に合格し、現在ベルリンフィルの一員として演奏すると同時に、ソリストとしてもヨーロッパや日本で活動中の若手有望株だそうです(プログラムより)。見たところ全然アーティストっぽくない、そのへんにいそうな普通のにいちゃんです。しかし一聴して思ったのは、この人はオケ奏者というよりも全くソリストの素質だな、ということ。超絶技巧をひけらかしたり、完璧さを売りにするキャラではなく、音程を外す場面もまま見られたのですが、その代わりにチェロのよく歌うことといったら!アンコールで弾いたトロイメライも歌心があり、良いものを持っているミュージシャンです。まだ若いから、ベルリンフィルで半分ソリストみたいな人達に囲まれてアンサンブルの修行を積むのは良い経験だと思います。

幻想交響曲はつい数日前にロンドン響で聴いたばかりですが、やはりというか、MTTとはだいぶ個性が違いました。ベルリオーズのスペシャリストとして認知されているインバルのアプローチは、「細かいことはしない」。シューマンでは終始スコアに目を落としつつ振っていたインバルも、得意の「幻想」では当然のごとく譜面台なしです。速めのテンポで開始し、作為的な表情付けなど一切なく、自信を持ってスコアの音を過不足なく再現していきます。第1楽章や第4楽章で主題のリピートを省略したのは、CD時代になってからそんな人がめっきりいなくなってしまったので、かえって新鮮でした(私は「幻想」の反復は冗長に感じる派であり、この判断を支持します)。チェコフィルは、以前聴いたときもそう思ったんですが、低音の響きが本拠地で聴いてもやっぱりイマイチ、腹に来るものがありません。しかし弦アンサンブルの渋い音色と一糸乱れぬ完成度、素朴ながらも深みのある木管の音は相変わらず至高の素晴らしさで、加えて金管は音圧十分なのに実に柔らかい響きを奏で、モダンなロンドンのオケではなかなか真似のできない独特のサウンドを楽しめました。極上のオケを使って堂々とした建造物を目の前に見せ付ける、正に横綱相撲の「幻想交響曲」。その建造物はしかしよく見るとゴシック調のグロテスクな装飾が施され、下手に凝った演出をしなくとも必要十分なだけの躍動感、高揚感、躁鬱感が自ずと湧き出てくるようにできている、これは本当に名曲だなあ、という思いをあらたにしました。なお、終楽章のコル・レーニョはLSOと同様、チェコフィルもちゃんとやってませんでした。最近の解釈ではこれが主流なんですかね?それとも、一流のオケは使っている楽器も高価だから、奏者が嫌がってるんでしょうか。

余談ですが、今日はどちらの曲も、最後の音の残響がある程度引いてから遠慮がちに拍手が始まっていました。演奏中も咳する人が比較的少なくて静かだし、良いマナーです。終演後、写真を撮る人がいなかったので自分も撮りませんでしたが(実は、開演前に場内の写真を撮っていただけで注意されました)、演奏中でも平気で水を飲み(実は、ペットボトルの水を持って入場しようとしたらダメですと注意されました)、場内ではアイスクリームを食べ、冬場は演奏中の咳が絶えず、ブラヴォーはフライング気味で、終演後はフラッシュの嵐、というロンドンの常識に毒されていると、本来のグッドマナーをややもすると忘れがちになりますね。自戒しなければ。