札幌響/尾高/諏訪内(vn):熱演は震災を乗り越えて2011/05/23 23:59

2011.05.21 Royal Festival Hall (London)
Tadaaki Otaka / Sapporo Symphony Orchestra
Akiko Suwanai (Vn-2)
1. Takemitsu: How slow the wind
2. Bruch: Violin Concerto No. 1 in G minor
3. Shostakovich: Symphony No. 5 in D minor

諏訪内晶子はチャイコフスキーコンクールで優勝した翌年くらいに招待券をもらって聴ける機会があったのですが、急用のため泣く泣くチケットを人に譲りました。それ以降はどうも縁がなく、生は今回が初めてです。札響を聴くのも初めて。尾高さんは多分日本で何度か見ていると思いますが、いつどこで何を聴いたか記憶が定かではありません。

今回は札響の創立50周年記念欧州ツアーとして、ミュンヘン、ロンドン、サレルノ、ミラノ、デュッセルドルフの5カ所で演奏会を行います。スケジュールを見ると全公演に諏訪内さんが同行して、ドイツではプロコ1番、それ以外でブルッフ1番を弾き、メインはロンドン公演のみタコ5、他は「悲愴」になっていました。なお、この演奏会は東日本大震災を受けて急きょチャリティコンサートになり、チケットとプログラムの収益は赤十字に義援金として寄付されるそうです。

1曲目の武満は初めて聞く曲ですが、神経質な弦に乗っかるように、調性感のあるおだやかなメロディーが繰り返される、不思議な感触の曲でした。途中ウッドブロックがチャカポコとコミカルに入ってくる箇所もありますが、生命線である繊細な弦はきっちりと保たれつつ、透き通って背景に溶け込んで行くように終りました。なかなか上手いです。

次のブルッフではお待ちかねの諏訪内さんが背中の開いたブルーのドレスで登場。高いヒールを履いているせいもありますが、長身のスレンダー美人ですね。彼女のヴァイオリンの印象は、まず、音がでかい(笑)。力強く押しまくる演奏で、早いパッセージでも弱音でも音の芯はずっと太いまま、しっかりと澱みなく、健康的に歌っていきます。昨年同曲を聴いた五嶋みどりと比べると繊細なニュアンスはちょっと欠けていて、表現の深さ、幅広さでは負けるかもしれませんが、テクニカルには十分、文句のつけようがない上手さで圧倒されっぱなしでした。チャイコフスキーコンクール優勝の肩書きは伊達じゃありません。オケも熱のこもった演奏でしっかりとバックアップし、期待以上に凄い演奏でした。諏訪内さんも演奏の出来にはたいへん満足げな様子でしたが、拍手が意外と淡白に終わり、アンコールがなかったのは残念です。


拍手に応える諏訪内さん。

メインの「タコ5」は大昔に部活のオケで演奏したことがあり、それこそ飽きるほど、隅々まで覚えるほど聴き込んだ曲ですが、それはさておき、さっきよりもさらに熱気の注入された札響の演奏は、日本のオケにあるまじき音の厚さで驚きを覚えました。先ほどの諏訪内さんが全員に憑依したかのような芯の太い弦の音に加え、木管も各パート名手が揃っていて凄く良い。金管はさすがにこちらのオケと比べたら馬力不足は否めないですが、尾高氏の強引なアクセルにも何とか耐えて、破綻することなくがんばっていました。若いメンバーが多く、何より勢いがあるのが良かったです(一昨日のブラジルのユースオケには、この勢いが欲しかった)。立ち止まってじっくりと考えさせるよりは、即物的な快楽を求めてスポーティに走り抜けるような演奏でしたが、音が厚く熱気があったおかげで上滑りせず、キレのある「タコ5」になりました。極めて自然に起こったスタンディングオベーションに感動しながらも、各々の奏者がこの2ヶ月間、本当に人生感が変わるほど苦しい体験をし、いろいろと思うところがあっての今日の演奏なのだろうな、ということを思い巡らさずにはおれませんでした。

終演後に尾高さんがマイクを取り、震災の当日東京でオペラを見ていたこと、被害が明らかになるにつれたいへん心を痛めたが、日本の復興を信じていることなどを語っていました。アンコールのピースとして震災前には別のものを考えていたが、イギリスの支援に感謝を込めて曲を変更した、というようなことを話して、エルガーを1曲(多分「エニグマ変奏曲」のアダージョだったと思う)演奏しました。これがまた気持ちの入った素晴らしい演奏で、イギリス人聴衆を中心に再びスタンディングオベーション。最後まで充実しまくった演奏会でした。

一昨日のラン・ランは客席に中国人が多かったですが、今日は当然日本人だらけ。デート中のdognorahさんにも遭遇しました。残念ながら全体的な客入りはイマイチ。バルコニーに人を入れなかったのでストールはそれなりに埋まっていましたが、諏訪内さんが出た後に帰ってしまった人も多く、空席が目立ちました。こんだけ良い演奏だったのに、何ともったいないことだ。


マイクを取り、英語で語るマエストロ尾高さんです。

フィルハーモニア管/マゼール:マーラー「夜の歌」2011/05/26 23:59

2011.05.26 Royal Festival Hall (London)
Lorin Maazel / The Philharmonia Orchestra
1. Mahler: Symphony No. 7

「マゼールのマーラー・チクルスを厳選して聴きに行く」シリーズ第7弾。今シーズンは結局この7番まで皆勤賞です。ぱちぱち。もう一つ、ロンドンに引越しが決まったときに密かに目論んでいた「マーラーの全交響曲をロンドンのローカルオケで聴く」シリーズのようやく完結でもあります。2009/2010のシーズン以降で聴いたマーラーの交響曲とオケは各々以下の通り。

 1番:LSO, PO (+ Berliner Phil)
 2番:POX2
 3番:PO (+ Berliner Phil)
 4番:LSO, LPO, PO (+ Berliner Phil)
 5番:LSO, POX2
 6番:LSO, LPO, PO, BBCSO
 7番:PO (+ DSO Berlin)
 8番:BBCSO
 9番:LSO (+ LA Phil)
 10番:LSOX2
 大地:LSO

今年2月のベルリンフィルで「マーラーの全交響曲をロンドンで聴く」のは達成していたのですが、3番、7番がなかなかローカルオケでは聴く機会がなく、マゼール・チクルス万歳です。しかし記録を見ていると、マーラーをこれだけ聴いているその間に、タコ、プロコはおろか、ベートーヴェン、ブラームス、チャイコフスキーですら交響曲はあまり聴いてませんし、モーツァルト、メンデルスゾーンの交響曲に至ってはゼロ。我ながらひどい偏食です。

前置きがだらだらと長いのですが、自分はこの曲に対してあまり語れるものを持っていないのが正直なところ。マーラーの中では7番、8番、大地の歌の3曲はそれ以外と比べて本当に聴く機会が少なく、細部があまり頭に入っていないので、マゼールがいかに「ヘンタイ」なことをやっても察知できる自信がないんです。

さて、今日は午後から激しい雨が断続的に降り、地下鉄が止まらないか心配でした。多分雨とは関係ないですがJubilee Lineが遅れていたのでちょっと心配していましたら、コンマスのジョルト氏、今日はちゃんと間に合って出てきました。よかったよかった、と思いきや、今度は登場したマゼール先生が「おや、譜面台がないぞ」とクレーム。すぐに指揮台を下りてしまいました。ほどなく譜面台とスコアがセットされ、御大も別に気を損ねた様子もなく、いつものように颯爽と棒を振り始めました。

陰々滅々とした第1楽章が、私がこの曲をあまり好まない原因の一つかもしれません。マゼールのテンポは今日も遅めです。冒頭のテナーホルンの主題(実際にテナーホルン使ってました?私の席からはトロンボーンで代用しているように見えたのですが)と、続く木管がいかにも苦しげで、こっちもますます息が苦しくなりました。金管は破綻なくがんばっていたし、集中力ある演奏でしたが、何せ重苦しくてたまらんです。何だか疲労感だけ残ったような長い第1楽章がやっと終わり、気を取り直して第2楽章は、ここまでちょっと抑え目だったティンパニがドカンと爽快な打撃を叩き込んでくれて多少溜飲が下がりました。しかしまだまだ陰々滅々は続きます。第3楽章はマーラーのスケルツォの中でも特に陰にこもったものだと思いますが、皮を破らんばかりのティンパニの一撃と、強烈なバルトーク・ピチカートに目が覚めました。この7番の2楽章と3楽章は表面的には「マーラー節」の集大成のようで、聴き覚えのあるフラグメントが連発してちょっとうんざりしますが、構成とか楽器の使い方にそれまでと違う新しい試みをいろいろ詰め込んでいて(個別に指摘できるほど聴き込んでいないのが弱いですが)、それも聴いていて道に迷ってしまう原因かなと。

4楽章は逆に、新しい境地の音楽。マンドリンとギターは私の席とは反対側でしたがよく聴こえましたし、陰から陽に向けての間奏曲の役割をしっかり果たしていました。お待ちかねの終楽章は冒頭からティンパニが期待通りの大暴れ。よく見るとフィオナちゃんもノリノリで、休符の間にもリズムに乗って首を軽く左右に振っていた姿がますますキュートでした。マゼール先生はこのシリーズで時々あったような、せっかくの流れを阻害するヘンなマネはせず、構成が弱いといわれるこの曲でもむしろうまい具合に起伏を作り、スムースな流れを導いていました。と思うのは自分があまりこの曲が好きじゃないからで、もしかしたらやっぱりヘンタイな演奏だったのかもしれませんが…。

フィオナちゃんの隣りのヴィオラトップの女性も演奏中の姿がなかなか美しく、おおっ、と思ったのですが、やっぱりプロポーションも抜群のフィオナちゃんにはかないませんでした。いや、ヴィオラの演奏はたいへん良かったんですよ…。もはや自分でも、何しに演奏会に行っとんじゃ、と思い始めてきたので、美人奏者探しは当分封印です。


開演前に真剣なまなざしで練習するフィオナちゃん。


終演後、「うーん、どうだったかしら」という微妙な表情

アルゲリッチ、キャンセル2011/05/28 09:14

6月7日のロイヤル・フィルハーモニックの話です。今日気付きました。アルゲリッチ聴いたことなかったので楽しみにしていたのですが…。これはリターンかなあ。

学生時代に初めてロンドンに来た際、着いてすぐにTime Outを買って演奏会情報を調べ、ちょうどデュトワとアルゲリッチの演奏会があったので当日券を買って聴きましたが、アルゲリッチはキャンセルしておりました…。もう20年前か。この元夫婦めが、決めた仕事はちゃんとやらんかい、と当時思いましたが、アルゲリッチにはどうも縁がないのですよね。