ロンドンフィル/マズア/ムター(vn)/ミュラー=ショット(vc):美男美女の競演に、指揮者の仕事は?2011/02/04 23:59

2011.02.04 Royal Festival Hall (London)
Kurt Masur / London Philharmonic Orchestra
Anne-Sophie Mutter (Vn-1), Daniel Müller-Schott (Vc-1)
Brahms: Double Concerto for Violin and Cello
Brahms: Symphony No. 1

ムターは昨年10月のLSOで聴くはずが仕事の都合で行けなくなり、リベンジとしてこの演奏会をチェックしていましたが、チケットはずいぶん前からほぼソールドアウト状態で、半ば諦めかけていたところ、好みのかぶりつき席ではないもののそれに準ずる好席が前日になって1枚リターンで出ているのを発見、即ポチで買いました。らっきー。

ブラームスの二重協奏曲を前回聴いたのは約6年前。そのときの独奏はケレメン・バルナバーシュとペレーニ・ミクローシュというハンガリーの超スター共演でしたが、席がオケ後方だったので独奏者がよく見えず聴こえずで、印象に残っているのは二人の後ろ姿のみ。今から思うと耳の穴をかっぽじって脳にもっとしっかりと刻み込んでおけなかったものかと悔しく思うことしきりです。

マズアはもう83歳ですか、5年前に見たときよりさらに老人さが増し、足取りが弱々しく、目もしょぼしょぼとして、左手は中風で常にブルブルと震えています。彼が何者か知らなければ、足下のおぼつかないただの後期高齢者にしか見えないでしょう。それでも指揮台に上ると40分ずっと立ったまま指揮棒も使わず腕を降り続けているのですから、たいしたものです(さすがにカクシャクとは行きませんが)。チェロのミュラー=ショットは若くてイケメン、チェロの音が伸びやかで瑞々しいです。多少音が弱いと感じるところもあったものの、正統派のテクニシャンと思います。念願の初生ムターは、鮮やかな緑のドレスに身を包み、さすがスターのオーラが出ています。ビジュアル的にはカラヤンと共演してたころとか、プレヴィンと結婚したころとかのイメージが強いので、もちろん美人には違いないのですが、すっかり中年女性になっちゃったんだなーと、しみじみ。この二重協奏曲はどちらかというとチェロの方が主役に私には聴こえるし、派手なカデンツァがあるわけでもないので、ムターを聴いたという実感がもう一つ湧いて来なかったのが正直なところです。もちろん美男美女ペアには華がありましたが、この曲のチェロとヴァイオリンは男女の愛ではなくて哲学者同士の対話のような音楽ですから、華やかなスターの競演だけでは済まない渋みがあります。それはともかく、ムターのヴァイオリンから特にハッとする音はついぞ聴かれなかったし、弾いているときの表情がずっとしかめっ面で変化に乏しく、私の好みのヴァイオリンではなかったかな。特にヴァイオリンの場合は、楽器と一緒に呼吸するような弾き方をする人が自分の好みだったんだとあらためて気付きました。当然1曲だけでうかつな判断は禁物なので、また次回聴く機会があればと思います。このコンビは来年2月にプレヴィンを加えたトリオで室内楽演奏会をやるようですね。室内楽は正直好んで聴くほうではないのですが、プレヴィンの曲(ジャズなのかな?)もやるみたいなので、要チェックですね。

メインのブラ1は前回もロンドンフィルで1年くらい前に聴いています(指揮はサラステ)。マズア爺さん、相変わらずよぼよぼと登場しましたが、衣装をブラウンから黒に着替えたもよう、実はお洒落な人なのかも。曲は普通に始まり、早めのテンポですいすいと進んで行きます。提示部の反復はあっさりと無視、あれ、前回のロンドンフィルもそうだったような。最近の演奏はみんな楽譜の繰り返し指定は律儀にやるものだと思っていたので前回も「ほー」と思った箇所でした。しかし聴き進むうち、繰り返し云々に限らずこれって前回のロンドンフィルの演奏とどこに違いが?と思い始めてきました。ブラ1は定番レパートリーですからオケのほうもそれこそ指揮者なしでも完奏可能な曲だと思いますが、それにしてもマズアならではのこだわりやゆさぶりが何も見えて来ず、実はこの指揮者、仕事をしてないんでは、との疑念が晴れないまま、結局コーダまで行き曲は終ってしまいました。これが中庸を行く王道のブラームス解釈なのかもしれませんが、前回サラステが作り上げたブラ1像に、何だかそのまま乗っかっただけのような気もしてなりません。ホルンを筆頭にオケの集中力がイマイチだった分、今回の方がなお悪いかも。両方の録音が手元にあって聴き比べできればいいんですけどねえ、それは無理ですし…。何度か拍手に応えたあと、最後はチェロトップの金髪お姉さん2人の手を握って引き上げるそぶりを見せ、なかなか好々爺ぶりを発揮していたマズアさんでした。

コメント

_ つるびねった ― 2011/02/07 00:29

マズアさん、ほんとよく分からない人ですね。
確かに仕事をしてるのかどうか分かんない感じだし、でもわたしは何故かしみじみと良いと感じるのですよ。
ムターさんわたしは反対に最近、きれいになったような気がします。ムターさん、来シーズンはロンドン・シンフォニーにたくさん登場するみたいなので、ぜひ、聴き直してみてください。でも、昔は尖っていたけど、今はまるくなったのかなぁ。

_ Miklos ― 2011/02/08 05:38

つるびねったんさん、こんにちは。マズア/ロンドンフィルは昔ブダペストでも聴いたことがあって、何か仕事してないクサい、というのはそのときからの印象です。ひょうひょうとしているのが持ち味なんでしょうね。私はちょっと好きにはなれないかな。
ムターはまた是非、今度はかぶりつきで聴きたい(見たい)です。しかしこの業界は、ムター/プレヴィンにしろ、アルゲリッチ/デュトワにしろ、離婚夫婦の共演は至ってあたり前に行われていますね。昔の些細なことを思い出して喧嘩したり、逆に焼け木杭に火がついたりしないのかなと、人ごとながら気になります。。

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_ miu'z journal *2 -ロンドン音楽会日記- - 2011/02/07 00:14

04.02.2011 @royal festival hall

brahms: double concerto, symphony no. 1

anne-sophie mutter (vn)
daniel müller-schott (vc)
kurt masur / lpo

マズアさん。飄々としてわたしにとってつかみどころがない指揮者なんです。演奏も正統派のど真ん中を行くこともあれば、荒涼とした無機質なブルックナーやマーラーを聴かせたり、アンサンブルがゆるくて合わなかったり、前に聴いたムターさんとのシベリウスの協奏曲は第3楽章のテンポが全くずれてとんでもないことに...