ロサンゼルスフィル:意外と謙虚だったドゥダメル2011/01/28 23:59

2011.01.28 Barbican Hall (London)
Gustavo Dudamel / Los Angeles Philharmonic
1. Mahler: Symphony No. 9

私の中の「まだ見ぬ(聴かぬ)強豪3大オケ」は現在、ロスフィル、フィラデルフィア管、ドレスデン・シュターツカペレでしたので、念願のチャンス到来です。ただ一番の問題は日程。このLAPロンドン公演が発売になってすぐ、最初は27日のほうのチケットを買っていましたが、後でフィルハーモニア管のシーズンが発表となって27日は何とバルトークのシリーズとバッティングすることが判明、やむなくLAPは27日のチケットを28日と交換しました。しかしその時点で29日はロンドンフィルにケレメン・バルナバーシュが来るためこれも絶対「買い」であることが確定しており、3連チャンがやむを得ない状況に。ロンドンでは演奏会は基本的に一回勝負なためこういうことは起こりますし、実は初めてでもないですが、平日の連チャンは体力的にキツくなる可能性も高く、結果的には恐れていた通り体力温存に失敗し、なかなか辛い三日間になってしまいました。

さて、そういうことなので今日のお目当ては9割がたロスフィルです。しかし初生ドゥダメルも、もちろん楽しみでありました。ドゥダメルというと、強力なエージェントがバックにつき、スターダムへの坂道を最高速で駆け上がろうとしている、注目度ナンバーワンの若手指揮者であろうことは疑いないでしょう。シモン・ボリバルとの掟破りなバーンスタイン「マンボ」とか(2007年PROMSの映像を初めて見たときは不覚にもジーンときましたが)、いつも髪を逆立てて吠えているプレス用写真とかから受けていた印象は「派手好きなイチビリニーチャン」だったのですが、今日は曲がマーラーの9番のみというプログラムだったこともあるんでしょうか、決して「俺が俺が」の人ではなく、オケを立てながら誠実に音楽を作って行くタイプの指揮に聴こえました。第1楽章はバーンスタインのごとくアーティキュレーションの拡大解釈をするでもなく、粘らずにさらさらと流れて行くので予想と違いました。ユダヤの血とか、迫り来る死とか、そういうしがらみや背景を注意深く取り去ったような純音楽的な演奏でした。私はこの曲は第1楽章が特に素晴らしく、バーンスタインの演奏などを聴いていると、これだけでお腹いっぱいなくらい濃密な一つの閉じた世界を感じてしまいますが、ドゥダメルの演奏は長大な交響曲のあくまでプロローグとして、正しいプロポーションで表現することに腐心していたと思います。かと思えば、息抜きのような第2楽章ではおおげさなアゴーギクをつけて田舎ダンス風の野暮ったさで一息つかせる芸も持っています。その後は疲れから途中何度か朦朧としてしまったので細かいところで見落としているかもしれませんが、第3楽章の怒濤の攻めも、終楽章の祈るようなフレージングも、変に尾ひれを付けずにスコアの凹凸を素直に投影したような演奏でした。これは普通のようでいて、決して普通ではありません。

ロスフィルは掛け値なしに音色が凄く良いオケでした。アメリカのオケらしい明るい響きで、技量が高く、馬力も十分ですが、きれいに角が取れているのが素敵です。CDだけのイメージでは、音だけでこんなに引き込まれるオケとは正直思っていませんでした。コンマスもめちゃめちゃ上手い、というか、華のある全くソリストの音です。機会があったら何度でも聴きに行きたいオケがまた一つ見つかりました。

最後の弦のpppが静かに消え去った後も指揮者はなかなか手を下ろさず、聴衆も息を飲んだまま余韻の行く先を見守ります。これほど長い沈黙は日本以外では初めてです。ようやく手を下した指揮者は、ブラボーの声を背に、客席を振り向くことなく退場しました。その後何度もコールで出てきて奏者を立てていましたが、自身は二度と指揮台の上に登ることなく、それどころか奏者の前に立つことも控えている様子でした。この日を見る限り、アイドル化されつつあってもドゥダメル本人は意外と素朴で謙虚な人なのかも、と感じました。良い演奏だったにもかかわらず、指揮者はご満悦という表情ではなく、オケのメンバーも笑顔があまりありません。けっこう規律の厳しいオケなのかもしれません。あるいは本当に、もっとハイレベルの演奏もできたのに、という芸術家の良心の現れだったとしたら、真の実力は底知れぬものがあります。ホームでの普段の演奏を是非聴いてみたいものだと切に思いました。

コメント

_ かんとく ― 2011/02/02 05:27

こんばんは。
とっても綺麗な音でしたね。私はもっとドロドロした音楽を予期していたので、とっても驚きました。ロス・フィルは1994年に旅行で行ったときに、当時の音楽監督サロネンさんの指揮で聞きました。(何を聞いたかは覚えてません・・・)なんか聴衆の皆さんもリラックスした感じで、「おー、さすが南カリフォルニア~」と変に感心しました。

_ Miklos ― 2011/02/04 07:57

かんとくさん、やっぱり「カリフォルニアの開放的な太陽」を想像してしまいますよね。でも音は非常にヨーロッパ的で、オケの人々も変に愛想振りまいたりしなくて、凛としていたのでイメージがかわりました。私も是非本拠地のウォルトディズニーホール(この命名も、何だかなあという感じはしますが)で一度聴いてみたいです。

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