ロンドン響/ノセダ/エーネス(vn):バルトーク、プロコフィエフ2010/10/26 23:59

2010.10.26 Barbican Hall (London)
Gianandrea Noseda / London Symphony Orchestra
James Ehnes (Vn-2)
1. Ian Vine: Individual Objects (premiere)
2. Bartok: Violin Concerto No. 2
3. Prokofiev: Symphony No. 6

今日はもちろんバルトーク目当てですが、難解な曲ばかりで何ともよくわからんコンセプトの選曲ですね。1曲目はLSO委嘱作品の初演ですが、テープ逆回しのようなクレシェンドを付けられた和音のみで概ね進行する、中間色をべた塗りで並べた抽象画のような曲でした。旋律とかパッセージというものはほとんどなく、弦の左手の指はめったに動きませんが、右手は時々4本の指でぴらぴらと弦を叩いて(トレモランド・ピチカートというらしいですが)不思議な効果を出していました。「何じゃ、これ」という感想を禁じ得ませんでしたが、プログラムを読むとやはりミニマル系モダンアートに触発されて作曲したとのことです。

ジェームズ・エーネス。生で聴くのは初めてですが、噂通りテクニックがめちゃめちゃ手堅い人ですね。ゆったり目のテンポで始まり、まずはその太くて深い音色に引き込まれました。このバルトークは民族色(らしさ)を出すためにあえてワイルドな音で弾く人も多いですが、そういったわざとらしい野性味の演出は一切排除した、濁りのないヴァイオリンです。実に丁寧ですが繊細という印象ではなく、紳士の品格を感じさせるたいへん男らしい演奏でした。ちょっと他に似た人を思いつかない、ユニークな個性ですね。何でもこの人、ヴィオラも弾くんだとか。線の太いヴァイオリンの音は、ヴィオラもしっかり鳴らせる技術を持っているところにも秘密があるのかもしれません。ただ、比類ない技術には感心しつつも、この人の演奏からは歌心がほとんど感じられなかったのが残念でした。ワイルドな演出などは別になくてよいですが、時には泣いてみせたり、ハッタリをかましたり、というテツラフのような芸達者な人のほうが、私には好みかな。

ノセダは何と、私も持ってるBoosey&Hawkes版のポケットスコアを見ながら指揮をしていました。あんな小さい音符を見ながら指揮ができるとは、視力が相当良いんでしょう。猫背で覗き込むようにスコアを見ながら不器用そうにばっさばっさと腕を振り、ぼたぼたと汗が滴り落ちていました。終始涼しい顔をして弾いていたエーネスとは対照的でした。ノセダは、オケをよく鳴らすのは得意そうですが、今日はちょっと力み過ぎでしたかな。あのLSOが、最後には珍しく息切れしていましたから。

メインのプロコ第6番は、CDも持っていますが普段ほとんど聴くことはなく、正直馴染みの薄い曲です。プロコフィエフだからどの楽章も比較的きっちりとソナタ形式に乗っ取って作曲されているのはわかりますが、かといってこの曲の掴みどころや聴きどころがクリアに見えてくるかというと、その域に達するにはまだまだ素養が足らないようです。1、2楽章の重苦しさと3楽章の軽さのギャップにも戸惑いますし、私には難解すぎて苦手意識がありますね。一つ前の第5番は大好きなんですけどねえ。ということで演奏についてあまり何も語れないのですが、一つだけ。バルトークではまだソリストへの配慮があったのかもしれませんが、プロコではオケをさらにガンガン鳴らしてきていました。特に打楽器群の爆演は圧巻で、終演後のオヴェーションでは珍しく、まず最初に打楽器陣を立たせていたのが印象的でした。

今日は先日のファミリーコンサートと同じく、Wei Luがゲストコンマスでした。そのせいか客席にはいつもより中国人が目立ったような。しかしこの人は、休憩時間に一人でコーヒー持ってうろうろしていたり、終演後はとっとと一人で駅に向かって歩いていたり、どうも孤高というか、孤独な印象ですね。ステージ上でも、コンマスを取り囲む3人は(彼らも各々コンマス級だったりするわけですが)常にお互いにこやかに談笑していますが、コンマスは蚊帳の外で仏頂面で孤立しています。音楽家の世界もまあいろいろあるんでしょうが、若いゲストコンマスにはもうちょっと温かく接してやればいいのに、と思ってしまったのは素人感覚に過ぎないでしょうか。