BBC PROMS 62: マーラー・ユーゲント管/ブロムシュテット2010/09/01 23:59

RAH
2010.09.01 Royal Albert Hall (London)
BBC Proms 2010 PROM 62
Herbert Blomstedt / Gustav Mahler Jugendorchester
Christian Gerhaher (Br-2)
1. Hindemith: Symphony 'Mathis der Maler'
2. Mahler: Lieder eines fahrenden Gesellen
3. Bruckner: Symphony No. 9 in D minor

本日は初めて正面ストールの席に座りましたが、うかつにもカメラとオペラグラスを持って行くのを忘れました。せっかく若いおねえちゃんがたくさんいたのにステージが遠くて良く見えず、残念です。

ブロムシュテット、マーラー・ユーゲント・オケ共に生演は初めてです。26歳以下で構成される若いオケですが、厳しいオーディションを勝ち抜いた人達なので技量は十分、立派なプロオケです。弦楽器はコントラバスを除きほとんどが女性で、私の経験ではそういう場合、弦の音が繊細すぎて厚みに欠けることが多かったのですが、このオケは実に重厚な弦を響かせます。コントラバスが12人もいて人海戦術で押し切っているところもあるんでしょう。総じてパートバランスは良さげです。ただ、管楽器は木管、金管共に時々不安定になり、音色もストレートすぎて艶やかさがなく、やはり多少熟成が足りないようにも感じました。名手が揃った年の大学オケ、という感じです。一方のブロムシュテットは、御年もう83歳にもなりますが元気いっぱいで、指揮の若いこと若いこと。まだまだ現役で行けそうです。なお、ティンパニはドイツ式の逆配置(右手側が低音)でした。

今日の席だと残響がかなり多めに聴こえて、ヒンデミットとブルックナーではそれがかえってオルガンっぽい重層的な弦の音を醸し出して良かったのですが、「さすらう若人の歌」では逆に透明感が殺がれてもやもやした感じになってしまいました。バリトンのクリスティアン・ゲアハーエア(Webで調べるとゲアハーヘル、ゲルハーヘル、ゲルハーエアなど様々なカタカナ表記がありましたが、どれが一番近いんでしょうか?)は多少上ずってたものの、軽めの美声で立派な歌唱でした。ブルックナーはオケがたいへん明るい音で健康的な演奏。2楽章スケルツォは長い残響のせいか、いまいちキレがなかったです。3楽章は厚い弦が土台を支えながらも全体では淡々とした演奏でした。しかしこの9番は未完成とは言え、この3楽章は全然途中の緩徐楽章らしくなく、長大なフィナーレ的性格が強いなあと聴いていてあらためて感じました。この後には何かを置くのは、よほどのものじゃないと厳しいでしょう。

ブルックナーは苦手な部類ですし、「画家マティス」もどんな曲だったかすっかり忘れたくらい久々に聴きましたので、雑駁な印象のみですいません。

BBC PROMS 65: ベルリンフィル/ラトル2010/09/03 23:59

2010.09.03 Royal Albert Hall (London)
BBC Proms 2010 PROM 65
Sir Simon Rattle / Berliner Philharmoniker
1. Beethoven: Symphony No. 4 in B-flat major
2. Mahler: Symphony No. 1 in D major

PROMS 2010の目玉の一つだけあってチケットは早々にソールドアウト、満員御礼で場内はえらい盛り上がりでした。

まず私的には、舞台上にティンパニが3組もあったのが目を引きました。ベートーヴェンは弦楽器各4プルトのコンパクトな編成で、広いステージの前の方にかためていたのですが、マーラー用の2組とは別に、もう1組のティンパニをチェロのすぐ後ろに配置。バロックティンパニを使うのならまだしも、全く同じタイプの楽器だったのが不可解でした。ひな壇から上げ下ろしがたいへんなのはわかりますが、普通はティンパニを11台も持ってツアーには出ないでしょう。ブルジョワぶりを見せつけられたような気もしました。

比較するのもなんですが、一昨日のマーラー・ユーゲント管と比べたらさすがにベルリンフィルは大人の貫禄でした。弱音はとことん繊細に、強奏はとことん大胆に、ダイナミックレンジの幅広さと表現力の多様さが抜群に素晴らしいです。各ソロ楽器の音色も大人の艶やかさで(けっこう外すこともありますが)、さすがに世界最高峰のオケです。機会があれば何度でも聴きたいものですね。ベルリンに住まないと難しいでしょうが。なお、コンサートマスターは樫本大進さんでしたが、もう第1コンマスになったんですね。

ラトルはベートーヴェンにしろマーラーにしろ小細工の多い人で、細部まで精巧に作り上げた人工物のような演奏でした。ある程度はオケを解放しておおらかに響かせるのが得意なヤンソンスとは対照的に見えます。もちろんクオリティに文句のつけようはないのですが、どこか突き放した覚醒感が時々漂ってきます。特に弱音のデリケートなコントロールが徹底していて、ベルリンフィルの首席に抜擢されてもう8年ですか、表現は悪いかもしれませんが、自分のオケとしてしっかり飼い慣らしてますね。3楽章冒頭のティンパニをあえてミュートさせたまま叩かせたのは、乾いた音を出したかったのでしょうが、ちょっと小細工やりすぎと思いましたが。終楽章のコーダでは、お約束のホルン奏者総立ち(多分各人の音量から言えばその必要はないんでしょうけど)はスコア通りきっちりやり、最後は大太鼓も全力で鳴らして大音圧でたたみかけました。聴衆は会場が揺れるくらいに足を踏み鳴らしてのやんややんやの大喝采。アンコールはありませんでしたが、たいへん盛り上がった一夜でした。

ハンガリー産アカシア蜂蜜2010/09/06 23:00

ハンガリーは知る人ぞ知る蜂蜜の名産地ですが、中でもアカシアの蜂蜜はたいへん上質で、雑味の一切ないサラリとした食感は、ちょっとしたカルチャーショックでさえありました。

イギリスでもアカシア蜂蜜は売っていますが、産地は不明か、ただ「EU」だったりするのが多い中、Marks & Spencerのアカシア蜂蜜は「Product of Hungary」となっており、我が家の定番です。ただし「Packed in the UK」となっていますが、この容器がまた優れもので、キレが良く、全く液ダレしません。少なくとも数年前のハンガリーではこんな容器は一切見たことがなく、蜂蜜は普通の瓶詰めが一般的でした。パッキングの品質管理がいいかげんなため、スーパーの蜂蜜の棚と言えば漏れた蜂蜜でベトベトになっているのがごくごく当たり前の風景だったのが懐かしいです。

BBC PROMS 71: フランス国立管/ガッティ: 驚異的な「ハルサイ」2010/09/07 23:59

2010.09.07 Royal Albert Hall (London)
BBC Proms 2010 PROM 71
Daniele Gatti / Orchestre National de France
1. Debussy Prelude a L'apres-midi d'un faune
2. Debussy La Mer
3. Stravinsky The Rite of Spring

ストのせいで終日地下鉄がほぼ全面ストップになっている中、客入りは上々でした。上の方は空席がチラホラありましたが、立見のアリーナがいつにも増して満員大盛況でした。ガッティは長年ロイヤルフィルの首席指揮者だったので、ロンドンにもファンが多いのでしょう。

フランス国立管もガッティもまだ聴いたことがないなー、というくらいの動機でチケットを買ったのですが、期待を遥かに超えた脅威の演奏でした。フランスのオケと言うと、演奏旅行では手を抜いてアンサンブルがてきとー(「適当」ではありません)というイメージを持ってしまうのですが、全くそんなことはなく驚くべき集中力を見せていたのと、管楽器のソリストが皆一様にめちゃくちゃ堅実な腕前。安全運転を心がけていれば切り抜けられるような選曲では全くないにもかかわらず、その危なげのなさは、先日のベルリンフィルをも凌いでいました。正直、フランス国立管というと、フランスではパリ管に次ぐ2番手という勝手な印象を持っていたのですが、この演奏クオリティは半端じゃないです。

ガッティは音の整理がたいへん上手で、あのひどい残響のロイヤル・アルバート・ホールでもぐしゃっとならずスッキリと透明感ある仕上がりになっていました。パートバランスが適正にコントロールされているんですね。ティンパニはフィルハーニア管のAndy Smithさんを彷彿とさせる「いい味系」の人で、私的にはさらに高ポイントです。相対的に弦が少し弱い気もしましたが、ホールと席のせいも多分にあるでしょう。

「牧神の午後」では完璧なソロ楽器を軸に上質の演奏技術でジャブを打ち、「海」ではブラスの馬力を解放してダイナミックレンジの広さを見せつけ、「春の祭典」ではティンパニ7台、大太鼓2台、銅鑼2丁を駆使した強烈な打楽器群でさらにバーバリズムの味付けをするという三段飛びのような構成です。調べると、音楽監督に就任したお披露目演奏会でも同じプログラムをやっていて、自信の十八番なんでしょうね。

とにかく、正直期待してなかった分、そのハイクオリティな演奏はたいへんインパクトがありました。もしパリに住んでいたら定期会員になりたいところです。こういったフランスものでは特に冴えわたった演奏を聴かせてくれそうですし、ベートーヴェンやマーラーだとどうなるかもちょっと興味津々です。

今年のプロムスも個人的にはこれで打ち止め。最後にこんな良いものが聴けて幸せでした。あとは少し休んで、2010/2011シーズンの開幕を待つのみです。

ポルガール・ラースロー2010/09/22 06:44

マイミクさんの日記で初めて知ったのですが、ハンガリーの誇る世界的に著名なバス歌手、ポルガール・ラースローさんが19日にチューリヒで亡くなったそうです。63歳とは、まだ若い。

Laszlo Polgar, a Grammy-winning opera star, dies at 63
http://www.ctv.ca/CTVNews/Entertainment/20100919/laszlo-polgar-obit-100919/

結局生で聴く機会は「魔笛」の一度しかありませんでしたが(「ワルキューレ」で一度キャンセルを食らいました)、ブダペストのステージではスターのオーラがひときわ光っていた人でした。オハコだった「青ひげ公の城」は、一度は聴いてみたかったです。

ベルリン2010/09/24 23:59

出張でベルリンに行ってきました。8年半ぶりですが、今回はうろうろする時間が全くなく残念。旧東側とか、もっと歩いてみたかったんですが。

しかし話は変わりますが、ヒースローのIRIS(虹彩認証システム)は今日も閉まっていて、せっかく登録したのに使う機会がほとんどありません。おまえら、やる気あんのか、と。

ロンドン響/ゲルギエフ:シチェドリンでシーズン開幕2010/09/25 23:59

2010.09.25 Barbican Hall (London)
Valery Gergiev / London Symphony Orchestra
Denis Matsuev (P-2)
1. Bizet (arr. Shchedrin): Carmen Suite
2. Shchedrin: Piano Concerto No. 5
3. Mussorgsky (orch. Ravel): Pictures at an Exhibition

我らがLSOの2010/2011シーズン開幕は土曜日でしたので、家族で賑わしに行きました。何と言ってもLSOは基本的にどの演奏会のどの席でも、空いてさえいれば16歳以下の子供は4ポンドでチケットが買えますので、せっかく超一流の演奏が身近にあるのに、子供に聴かせない手はありません。

昨シーズン、LSOの演奏会はファミリーコンサートを除いて10回行きましたが、首席のゲルギエフは1度しか聴けず、曲もメシアンという変化球だったので、ゲルギエフの実像に触れたのは今日がほとんど初めてみたいなもんです。

まずはシチェドリンの「カルメン組曲」、これもキワモノの変化球みたいなもんですが、今シーズンはシチェドリンがテーマの一つのようで、多数の作品をとりあげる予定になっています。まず、おやっと思ったのは、指揮棒を使わずに指をぴらぴらさせ、けっこうわかりにくい指揮をするなあということ。出だしがピシッとせず、縦の線が甘いところは前任者のコリン・ディヴィス卿との共通点ですかね。テンポは全体的に遅めで、50分くらいかかっていたでしょうか。バレエ用の曲なんだし、もっと軽やかさが欲しかったと思います。スペイン風カスタネットもリズムがもたっとして、乗れませんでした。

次もシチェドリン、ピアノ協奏曲第5番です。といっても、他の番号も知らないので作風がよくわかりませんが、この第5番はアルペジオやスケールの多いソリッドな感じの曲でした。前衛の感はありませんが、音の洪水です。マツエフのピアノは、初めて聴く曲ではどうにも評価はできませんが、やはりチャイコフスキーコンクールの優勝者だけあって運指は非常に正確に見えました。打鍵がたいへん力強く、大げさな身振りでガンガン来るのですが、垂直に振り下ろすのではなくちょっと横滑りをしているというか、何となくそわそわと落ち着きのないピアノでした。最後は肘で鍵盤を押してましたが、スコア通りなんでしょうか。何せ、かぶりつきの席で見ていましたので、ピアノが揺れに揺れて、ステージから落ちて来ないかとハラハラしました。演奏終了後は作曲者のシチェドリン本人が舞台に呼ばれ、やんやの喝采を浴びておりました。子供にはちとつらいですが聴き応えたっぷりの佳曲で、チャンスがあればまた聴きたいですね。

休憩後、この時点で時刻はすでに9時30分。メインの「展覧会の絵」はゲルギエフの得意曲だけあって、オケの威力が全開のたいへんゴージャスな演奏でした。奏者もだいぶ疲れているはずですが、さすがLSOは破綻しないし(「卵の殻をつけた雛の踊り」ではちょっと崩壊しかけてましたが)、馬力も満点です。やはり私的にはどうしても縦の線は気になるところですが、全体としてはこの曲の最上級の演奏だったと言ってよいかと。押したり引いたりのメリハリの付け方が上手く、さすがゲルギエフは手慣れています。

終演はもう10時半近くになってました。すっかり満腹です。そう言えばゲルギエフは今年のPROMSでもマーラーの4番&5番という無茶なプログラムをやっていましたが、それに比べたらまだ穏やかでしたね。

ロンドン響/ゲルギエフ:完璧すぎるマーラー5番2010/09/26 23:59



2010.09.26 Barbican Hall (London)
Valery Gergiev / London Symphony Orchestra
Andrew Marriner (Cl-2), Rachel Gough (Fg-2)
1. Shchedrin: Concerto for Orchestra No. 1 'Naughty Limericks'
2. R. Strauss: Duett-Concertino for Clariner and Bassoon
3. Mahler: Symphony No. 5

前日はシーズンのオープニングでゲルギエフ/LSOの濃いいサウンドを十二分に堪能しましたが、やはりせっかくだからマーラーも是非とも聴いておきたく、連チャンとなりました。

まずはシチェドリンの管弦楽のための協奏曲第1番、表題は日本語では「お茶目なチャストゥーシュカ」というらしいですが、モロなジャズのリズムに乗って、民謡風のメロディーがごった煮みたいに畳み掛けてきます。コーダはどんどん加速して行って、ブレークし、不協和音でドン。アイヴズを彷彿とさせる作風ですね。しかし、曲は面白いのですが、今日もいまいちリズムのノリが悪いです。手持ちのプレトニョフのCDと比べたら、スイングの差は歴然です。ロンドンは意外とジャズ系のライブハウスが少なく、ジャジーな土壌が薄いのかもしれません。終演後は前日に引き続き作曲者が登場し、喝采を浴びていましたが、今日はやけにあっさり拍手が止んでいました。

2曲目、デュエット・コンチェルティーノは確か聴くのは2度目ですが、変に軽すぎて好みではないというか、聴きどころがもひとつよくわからないので、パスです。クラリネットは、特に冒頭たいへん澄んだ良い音で感心しました。今日は3階のバルコニー席でしたので、ファゴットの音があまり届いて来なかったのは残念。上から見るとかぶりつき席に少し空席を見つけましたので、休憩中にそそくさと移動しました。

さて、メインのマーラー5番は、LSO Liveシリーズのためレコーディングされていたせいでしょうか、ひときわ集中力高く、完璧な演奏でした。トランペットからホルンから、とにかく皆さんパーフェクトに凄い。これぞ超一流のプロの演奏と感服しました。昨日感じたルーズさはみじんも現れず、みっちりとリハをしているなと感じました。思えば昨日の「展覧会」は得意で軽めの曲ということもあって、適当に流していた面はあったのでしょうね。通しでリハをやったかどうかも怪しいものです。対して今日のマーラーは、フレーズはいちいちピシッと決まっていながらも音楽が痩せたり固くなったりせず、音響がどんどん拡大して行きます。音自体はわりと冷徹にも感じるのですが、大らかに広げていくのがゲルギエフは得意そうですね。アダージエットではとことん繊細なところも見せ、スケールの大きいマーラー像を紡いでいました。熱演系でもバーンスタインともヤンソンスとも違う、独特の味ですね。終楽章コーダ前の金管コラールは圧巻な音圧で、しびれました。席を移動してきて本当に良かったです。カメラをようやく買い替えたこともあり、今日は自分としては珍しく、終演後の写真なんぞを撮ってみました。CDが出たら買おうと思いますが、この迫力は決してCDには収まっていないんでしょうね…。